人物

小林秀雄について(3)

前回書いたような、自分が生活体験の中からつかみ出した見解だけが信じるに値するという考え方は、自ずから抽象性を否定し、実感的、具体的な方向を指向するようになる。例えば、何かにつけて問題とされる次の一節。 「美しい『花』がある、『花』の美しさと…

小林秀雄について(2)

『本居宣長』は、たいへん立派な作りの重い本だ。箱から取り出すと、手触りがよく、目の粗い濃紺の木綿の布に金文字でタイトルと著者名が書かれている。副題が付いていないことで、なお一層風格が感じられる。表紙を開くと、見返しに奥村土牛の手になる山桜…

小林秀雄について(1)

最近、新聞の書評欄で見付けて浜崎洋介『小林秀雄の『人生』論』(NHK出版新書)という本を読んだ。実は、私にとって小林秀雄は中国近代史、明代思想史(陽明学)、高村光太郎、音楽史あたりに続く「第5専門」と言ってよい分野なのである。目に止まった…

植松氏へのエール

抱えていた論文を1本出して、一息ついているということは、半月ほど前に書いた。その後も、のんびりと、懸案だった本を読んだり、改めて聴いてみたいと思った音楽を聴いたりしている。ただし、PCの調子があまりにも悪いので、ここに字を書くことがひどく…

奈良の諸仏と寺院

古典の授業の時に、阿呆のひとつ覚えのように「いいものしか古くなれない」「なぜこの作品は古典になることが出来たのか考えよ」と繰り返している私は、古いものに対して並々ならぬ畏敬と愛着とを持っている。 日本には現在、奈良時代以前に作られた建物が2…

メルケルの退任

ドイツで16年にわたって首相を務めたアンゲラ・メルケル氏が退任式を行ったということは、既に何日か前に聞いていた。今日の毎日新聞には、そのメルケル氏が自伝を執筆しようとしていることについての記事が出た。ドイツの雑誌『シュピーゲル』に基づく記…

届いた遺書・・・阿部哲男先生の訃報に接して

一昨日未明、私が名取第一中学校に在籍していた時の恩師、阿部哲男先生が亡くなった。多分80歳であったと思う(81歳かも)。まだ河北新報にも訃報が出ないが、まったくの偶然、私の現在の勤務先に先生の甥御さんがいらっしゃるため、私はそのことをいち…

魯迅生誕140年など

(10月7日付け「学年主任だより№20」より①)*冒頭は9月30日記事の姉妹編となる。なんだか話が少し違うぞ、というのは、「学年主任だより」は紙面の大きさによる厳しい字数の制約があって、いちいち説明が必要な書き方はできないからである。 「食」…

(蛇足)首相退陣

遅くなってしまったが、9月2日(木)14:15、塩釜保健所から電話があって、「陰性です。今後の行動制限はありません」と言われた。昨日からめでたく出勤。その学校は、今後2週間、午前が出席番号の奇数番、午後が偶数番、それぞれ40分3コマ授業と…

高橋竹山

8月7日、今月もまたラ・ストラーダに映画を見に行った。今月の演目は「津軽のカマリ」。津軽三味線の巨匠、いや、名人である初代高橋竹山の生涯を描いた作品だ。「カマリ」というのは津軽弁で「匂い」を意味する。竹山が生前、「それを聴けば津軽のカマリ…

あの時の船長さん

寝台列車がなくなった後、北海道には船でしか行く気にならない。「旅行は線」、移動の過程も含めて全てが旅行という私にとって、飛行機は余程よく晴れた日に1回くらい乗るのはいいが、移動の実感が持てないつまらない交通機関である。太平洋フェリーは本当…

まずは斜里岳

Nさんとは、1999年8月10日に、北海道最高峰・旭岳(2290m)裏のキャンプサイトで隣同士にテントを張ったというだけの関係である。小学校5~6年生の男の子を1人連れていた。息子さんと親子登山かと思っていたら、Nさんは小学校の先生で、連…

『女たちの長征』

外出自粛、というだけでなく、いろいろと勉強したいことがあって、1日だけ母親の生活支援に行った以外、自宅で読書その他に時間を費やしていた。かつて読んだことのある本を手にすることが多かったのだが、そんな中で、唯一初めて読んだ本として『女たちの…

働く「手」

老化により体の不自由な母の生活支援のため、基本的に毎週末、土曜か日曜に仙台市近郊に1人で住む母の所に行く、ということは、おそらく既に何度か書いたことがある。今週は、昨日がPTA総会で登校日だったので、今日行った。 家に着くと、前に軽トラが止…

ヨハネ受難曲

先日、浅川保先生の著書に触れた時(→こちら)、「ちょっと骨の折れる本に取り組んでいた」ため、なかなか先生の本を読むことができなかった、というようなことを書いた。その「骨の折れる本」とは、私の研究に関わる中国の文献などではなく、礒山雅『ヨハネ…

戦争を止めるのも「哲学」

2月の半ばに、山梨平和ミュージアム館長の浅川保先生から、著書『地域に根ざし平和の風をⅡ』(山梨平和ミュージアム刊)を送っていただいた。ちょっと骨の折れる本に取り組んでいたこともあって、「つんどく」してあったのだが、最近、ようやく通勤の電車の…

バイデン氏の勝利演説

先日、いくらバイデン氏が勝ちそうだとは言っても、トランプ氏に7千万もの票が入ったことは、この世を悲観するに値する、というようなことを書いた。確かにその通りなのだが、一昨日のバイデン、ハリス両氏の勝利演説というのを聞いて、なんだかその悲観が…

カルロス・クライバー

私的に忙しい8月が終わり、ようやく一息ついた。いろいろたまっていた本を読んだり、音楽を聴いたりするぞ、と思い、8月16日に録画してあったEテレ・クラシック音楽館「いまよみがえる伝説の名演奏」という番組を見た。あまり面白いので2回も、である。…

山本直純のこと(番外)・・・小尾旭氏の訃報に接して

先週の木曜日、7月30日の朝日新聞で、小尾旭(おび あきら)氏(90歳)の訃報を目にした。2ヶ月前なら絶対に気に留めなかった小さな訃報である。というのも、記事にもあるとおり、小尾氏は山本直純のマネージャーを長く務めた方で、先日、私が山本につ…

美しき老人の姿

先週の水曜日が高校入試で、今日までひたすら採点をしていた。あみだくじで分担を決める時、不幸にして「小説」を引いてしまった。小説はぬらりくらりとしていてとらえどころがなく、生徒の作文力の問題もあって、とにかく判断に困る場合が多いのである。案…

衝撃の年始(C・ゴーン編)

年末年始の報道で、私にとって衝撃的だったのは、おそらく他の多くの人と同じだと思うが、保釈中のカルロス・ゴーン氏が出国(逃亡)に成功したことと、アメリカによるイラン軍司令官の殺害であった。多くの人が言及していることなので、私ごときが付け加え…

まずは講師について・・・ラボ第21回

昨夜はラボ・トーク・セッション第21回であった。講師は海洋研究開発機構(JAMSTEC)の特任技術副主任・大木健氏(33歳)。演題は、「未知のフィールドをロボットで探る」。 今回のラボは、幾つかの点でこれまでのラボとは違っていた。まず、ラボ…

あんた、本当に興味あるの?

(12月2日付け「学年だより№28」より②) 先々週末、東北学院大学を始めとする仙台市内の各大学で、推薦・AO入試の合格発表があった。そこで、先週月曜日から火曜日にかけての放課後、結果報告に来た多くの3年生で、東職員室もにぎわっていた。「先生…

平石氏にエールを!

今シーズン楽天の監督だった平石洋介氏が、楽天を退団し、ソフトバンクのコーチに就任するという情報がネットで流れたのは、先月の25日頃だっただろうか。ところが、不思議なことに、ネットでは多くの情報が飛び交いながら、新聞やテレビではそんな報道が…

「一つのメルヘン」(1)

今、1年生で使っている「国語総合」の教科書に、中原中也の「一つのメルヘン」が載っている。もう一人の担当者(凡庸な国語教員ではなく、私が20年以上にわたって尊敬している大先生。既に定年退職されたが、今年講師で来てもらっている)と相談したが、…

ショスタコーヴィチ(3)

先日、我が家の庭の生ゴミを捨てている場所からカボチャの芽が出て、勢いよく伸びているという話を書いた(→「ショスタコーヴィチ(1)」冒頭)。いつになったら花が咲くのかなぁ、と思っていたところ、3日くらい前から咲き始めた。特に予定のない今日、朝…

ショスタコーヴィチ(2)

ショスタコーヴィチの最もよき理解者は、チェリストのロストロポーヴィチとソプラノ歌手であるヴィシネフスカヤ夫妻であったことは間違いないと思われる。ショスタコーヴィチ研究の権威であるファーイも、ロストロポーヴィチ夫妻が実質的な亡命のためソ連を…

ショスタコーヴィチ(1)

どうしたら消費するエネルギーを減らせるか、ということを非常に重要な問題意識として持っている私は、半年ほど前から、生ゴミを庭で処理することにした、という話はいつぞや書いた(→こちら)。それは今でも継続している。自然の能力というのは偉大なもので…

『福沢諭吉の真実』(2)

石河幹明という人は、慶應義塾を卒業して、1885年に『時事新報』に入社し、1922年まで『時事新報』一筋の生涯を送った。本人は主筆になることを目指したようだが、自分との思想的違いをよく知っていた福沢は、石河を実務者としてのみ評価し、思想家…

『福沢諭吉の真実』(1)

我が家に最も近い書店には、店内に古書のコーナーがある。2週間あまり前のことだが、『時刻表』(笑)を買いに行ったついでに古書コーナーに立ち寄り、100円均一の新書の中に平山洋『福沢諭吉の真実』(文春新書、2005年)という本を見付けた。 私に…