左藤さんの文鎮

 カンケイマルラボというお店(「ラボ・トーク」の会場)で、今、ガラス作家・左藤玲朗さんの個展をやっている(明日で終了)。2年前に、この店とこの方については少し書いた(→こちら)。
 その時買った広口のコップがたいそう気に入ったので、次に左藤さんの個展がある時には買い足しをしようと待ち構えていた。残念ながら、我が家のお花見と重なってしまってパーティーには出られなかったけれど、その翌日お店に行って、2年前に買ったのとほぼ同じサイズの広口コップを3個買った。(今回は、左藤さんの目の前で買ってあげることができた。)更に、なんとなく心引かれて気になったので、水曜日に用事でカンケイマルラボに顔を出した際、青ガラスの文鎮を買ってしまった。
 非常に無骨。繊細で高慢ちきな工芸品の対極にあるような実用一点張りのコップであり、文鎮だ。肉厚でどっしりとしていることによる安心感もあり、まるで明治のガラスのように波打つ表面といい、とても素朴でしっくりと手になじむ。そのでこぼこした形状により、光を当てると、その反射光・透過光がまた魅力的な模様をテーブルの上に描く。
 文鎮は、家にたくさんある。たくさんと言っても5個くらいのものだが、文鎮を5個も必要とするわけではないので、やっぱり「たくさん」だ。
 文鎮は紙を押さえるための物である。しかし、私にとっての用途はそれだけではない。その重さと肌触りがよいものは、手で握ったり撫でたりしていると気持ちがいいのである。まぁ、ライナスの毛布のようなものだ。
 今まで私がそのために愛用していたのは、雄勝石の文鎮である。同じ大きさのものを2個持っている。シンプルな直方体で、片方は宮城野萩、もう片方はツタの葉の蒔絵が施してある。それはそれで確かによかったのだが、今回、左藤さんの文鎮を手に入れて握っていると、こっちの方がいい。凸型。直径5㎝、高さ3.5㎝の円柱の真ん中に、直径1.5㎝、高さ1㎝の突起が付いている。この形状が実に手に馴染む。そして、雄勝石の文鎮と違うのは、まず、その程よくでこぼこしながら滑らかな表面だ。雄勝石の文鎮は3㎝×3.5㎝×10.5㎝の直方体で、6つの面が完璧に平坦、つるつるなのである。重さも雄勝石が350gなのに対し、左藤さんのは200gで、こちらの方が手ごろだ。加えて、私は今回初めて、実はガラスという素材は石に比べると暖かいのだ、ということに気がついた。夏になれば石の方が気持ちがいい、ということになるのかも知れないけれど、とりあえず今に関して言えば、ガラスの温もりが心地よい。鈍く青い、透明と言うよりも半透明と言った方がいいような色合いも魅力的だ。
 木村衣有子『はじまりのコップ−左藤吹きガラス工房奮闘記』(亜紀書房)によれば、左藤さんが文鎮(本の中ではペーパーウェイトと書かれている)を作り始めたのは2012年。工房を開いたのは2000年だから、比較的新しい製品である。日常生活でさほど必要とされるものではないにもかかわらず、「飛ぶように売れている」のだそうだ。さもありなん。
 左藤さんの文鎮は、現在、学校の机の上に置いてある。広げた本や書類を、仙台一高の卒業記念品としてもらった「自重献身」という校訓入りの平べったく透明なガラスの文鎮と雄勝石の文鎮(ツタ)で押さえつつ、手では左藤さんの文鎮をにぎにぎしている。


注)佐藤さんの文鎮やコップの写真を見たい方は、「左藤吹きガラス工房」のHPへ。