宮水の受験生よりも、日本人の食生活!



 今日は、仙台で行われた全国学習塾協会北東支部主催の「宮城県入試懇談会」という会に出席していた(昨年のこの会については昨年6月24日記事参照)。県内の40ほどの学習塾の先生が集まって、高校側の説明を聞くという会で、3日間行われるうちの初日であった。

 既に新聞でも発表されているとおり、私が勤務する宮城県水産高等学校(宮水)は、来年春に学科改編を予定している。現在ある教科:工業の情報科学科を募集停止し、教科:水産の海洋総合科だけの専門高校にする、情報科学科を廃止した人数枠を使って、新たに調理類型という類型(コース)を開設する、というのがその概要だ。今日の会で、私に与えられた一方的なプレゼンテーションの時間はわずか10分だったので、私は一般的な宮水紹介はほとんど端折って、学科改編の意図だけを述べた。およそ、以下のような内容である(質問に答えた部分と合成。若干の補足あり)。


「宮水は、大きく三つの特長がある。一つは、普通の学校では考えられないような巨大なイベントが、淡々延々と日常的に行われている学校だ、ということ。もう一つは、究極の総合実業高校ということ。そしてもう一つは、学習と研究が密接に結び付いた学校だ、ということだ。

 ところで、水産業にはいろいろと逆風が吹いている。水産資源の減少のみならず、最近は、日本人の魚介類摂取量の減少ということも起こっている。畜肉と魚介類の摂取量を比較したデータによると、数年前にそれが逆転したと思ったら、あっという間に差が広がり、今や1人1日当たりの摂取量で10グラムも畜肉が魚介類を上回っているという状況だ。

 しかし、カロリーベースで食糧自給率が40パーセントにも満たない日本で、この状態を放置しておくことが果たしていいのだろうか?食糧の60パーセント以上が輸入、国産牛や豚にしても、飼料の大半は輸入、地球の温暖化による自然災害や人口爆発が心配される中、これが永久に続けられるだろうか?

 『もしドラ』で有名になった経営学者P・ドラッカーは、P・センゲとの対談の中で、向こう30年間でもっとも重要となる産業として、水産養殖業を挙げている。昨夏、震災支援でアメリカに招かれ、多くの水産施設の見学をした宮水の教員は、繰り返し、これからは水産業の時代だと言われたそうだ。国土が広いアメリカでもそう言われるのに、国土の狭い日本が輸入を当てにして、海に目を向けないことは考えられない。農耕地の少ない日本も、排他的経済水域の面積は世界で第6位だ。

 人間が、食べずに生きていけない以上、日本人は改めて海に目を向けなければならない。私たち宮水の教員は、そんな海の時代がいずれやって来ると信じている。6次産業化というのも面白い方向性だ。だから、パンフレットにある「水産・海洋・食品は無限の可能性を持つ夢の産業分野です!」というコピーは、決して宣伝用の美辞麗句ではない。

 来春、宮水は教科:工業の情報科学科を募集停止して、教科:水産の専門高校となる道を選び、調理師養成を行う調理類型を新設する。校内では、魚食型調理師という言葉を使っているが、日本料理を世界遺産に登録しようという政府の動きさえある中で、日本料理の重要な特長である魚料理を意識的に学び、魚食文化を発信して、水産業の底上げを目指すというのが狙いだ。この類型は、学校の授業でやっていることをきちんとしていれば、国家試験免除で、卒業と同時に調理師免許が取れる。現在はまだ申請中だが、認可のための条件は満たせそうだ。

 私は昨年から、この会に出席させてもらっている。それ以前、塾の先生というのは、少しでも偏差値の高い高校にいかに多くの生徒を入れるかだけを考えている人たちだと思っていたが、私の認識は大きく変わった。多様な生徒たちに、それぞれの問題意識や性格に合った進路選択をさせたいという願いを強く感じる。私たちと問題意識を共有できるのではないか。私たちは、○○大学に何人入ったというような物差しで勝負することは考えていない。多少成績が悪くても、今お話ししたような日本の食糧生産への問題意識を持っていたり、机上で文字を扱うだけでなく、手足を使って何かを学びたいというような生徒がいればご紹介いただきたい。

 しかし、私たちは、何が何でも宮水を受験させて欲しい、宮水の受験生を1人でも増やすことこそが大切だ、などというけち臭いことは考えていない。あくまでも、水産業の振興と、それによる日本人の食糧確保、豊かな食生活というのが目標だ。だから、オープンキャンパスには、水産高校の受験を考えている生徒だけでなく、むしろ水産なんて考えたことがないという生徒にこそ来て欲しいと思っている。案内をお願いしたい。」


 会の終了後、昨年の倍以上の方から名刺交換を申し出ていただいた。「先生は語りでお金が取れますよ」と言って下さる方もいた(びっくり!!別にお金をくれなくても、どこへでも行きますよ)。有料のパンフレット(笑。『それゆけ、水産高校!』のこと)もたくさん買っていただいた。話をしていると、塾の先生は高校教員より面白いようにも思う(ものの考え方が自由なんじゃないかな?)。少しでも、水産業、あるいは第一次産業に目を向け、その価値を再認識し、一緒にその問題を考えてくれる人が現れてくれるといい。