寮、寮、寮、寮、寮・・・



 今日は、今年初めての公立高校合同説明会があり、私は、名取北高校で宮水の営業活動をしていた。県教委に勤務する知人から、「まるでテキ屋ですね」などと冷やかされながら、通りかかる中学生とその保護者に声を賭け、宮水の芸術的な新パンフレットを手渡し、説明(口上?)を述べる、という仕事である。

 今日の説明会は「仙南地区」のもので、本来であれば、名取市以南の学校だけがブースを設け、全体会場で学校紹介のプレゼンテーションをするのだが、何しろ石巻地区と本吉地区にしかない(ただし、本吉地区の気仙沼向洋高校は1学年120名のうち、水産を学ぶのは20名ほどなので、宮水が実質的には県内唯一と言ってもよいかと思う)貴重な水産高校なので、全県の中学生を生徒募集のターゲットにすべきだ、ということになって、あちこちにお願いをし、今年は宮城県内全地区の合同説明会に参加することにした。とはいえ、宮城県内に80校以上の公立高校があることもあって、縄張り意識と言うよりは、スペースや時間の問題から、地区外の学校である宮水の割り込みは容易でない。結局、プレゼンテーションはなし、ブースも教室を確保することは出来なかった。パンフレットの置き場所として指定された場所が甚だ不都合だったので、無理を言って、強引に全体会場の出入り口付近(ある意味で特等席)に机を置かせてもらっての営業活動であった。

 たいていの人は、宮水(水産高校)なんて知らない。知っていたとしても、「あ、船に乗ったりするんでしょ?」とか「女の子でも入れるの?」といったレベルである。「社会勉強だと思って話聞いて行きなよ・・・」と呼び止め、3〜5分で簡単に説明すると、けっこう多くの中学生・保護者が関心を示す。ところが、なにしろ仙南地区の説明会である。仙南地区の中学校からだと、宮水に最も近い名取市でも片道2時間以上、遠い蔵王町白石市からだと、もはや通学は不可能だ。そんなことに気付いた時、決まって聞かれるのは、「寮ありますか?」である。これが非常に痛い。ないものをあるとは言えないので、「寮は無いんですけど、下宿の紹介はしています」と答えると、しらけた表情で「下宿ですか・・・?」と話が止まる。県が建て、学校が管理する寮と、民間の下宿では、安心感において格段の差があるらしい。

 実は、このことは今に始まった話ではなく、校長も含め、宮水の教員は寮の重要性というものを非常に深刻に認識していて、ことあるごとに「寮を建ててくれ」と県に要望しているのである。県内でほとんど唯一の水産高校なので、全県の中学生に進学の実質的な道を開かなければ不公平だし、それが出来なければ意識の高い生徒は集まらず、将来の宮城県水産業を支え、リードする人材も育たない、というのが私たちの言い分だ。県は、まったく相手にしてくれない。「お金がない」と言うだけである。確かに、お金がないのはどうしようもない。借金を増やすことには、私も反対だ。だが、普通科の高校の10倍にもなるという運営・維持費を考えると、高い志を持った生徒を全県から集めなければ、逆に県費の無駄遣いというものであろう。仙台からの大動脈・JR仙石線が当分復旧しないという震災がらみの痛い事情もある。

 「寮は?」「寮は?」という質問を繰り返し聞きながら、釣り竿も網も持たず、水面下を悠々と泳ぎ回るホンマグロを見ながら地団駄を踏んでいるような、そんな気分を感じ続けていた。相手にも、そんな思いを抱いてくれた人がいたかもしれない。