二刀流の「打撃の神様」



(11月1日付け学級通信より)


 今日から11月。古称で「霜月」と言う。もちろん、霜の降りる月という意味だ。この石巻でさえ、まだ決して寒くなったとは言えないけれど、間もなくそういう季節がやってくる。我が家の桜も、葉っぱが少し色づき始めた。

 ところで、昨日、新聞で川上哲治が死んだことを知った。93歳。私は、巨人ファンではなく、むしろ「アンチ巨人」と言うべき人間である。しかし、自分が野球に目覚めた小学校時代が巨人の9連覇と重なるので、川上哲治という人の印象ははなはだ強烈だ。ある種の感慨を持って新聞を読んだ。

 どの新聞も、見出しには川上哲治について「打撃の神様」という有名な表現を使うわけだが、記事を見ながら、私が感嘆したのは、ほとんど顧みられることのない投手としての実績である。確かに、川上は投手として巨人に入った。やがて打者に転向してしまうのだが、二刀流時代の最初の3年間はすごい。高卒2年目19歳の時に、94試合(当時は年間100試合くらいだった)に出て343打数116安打=打率3割3分8厘、4本塁打75打点という成績で首位打者最多安打・最多打点のタイトルを取るとともに、投手として18試合に登板して6勝4敗、防御率2.36という数字を残している。ちなみに、今年「二刀流」として話題になった日ハムの大谷は、その時の川上より1歳若いが、打者として77試合に出て189打数45安打=2割3分8厘、3本塁打、20打点、投手として13試合で3勝0敗、防御率4.23であった。

 なんだか、過熱した報道を見ていると、大谷が初の「二刀流」であるかのように感じてしまうが、川上はまったく次元の違うレベルで「二刀流」だったわけだ。今更ながらに、その偉大さに頭が下がる。もっとも、その川上も、翌々年21歳の時には登板が3試合にまで減り、勝ち負けは付かず、防御率も16.20に急落し、更に翌年からは打撃に専念するようになる。二つの道でプロになる難しさと、プロの世界の厳しさとがひしひしと感じられた。合掌


【自分を伸ばすとは世界を広げること】

 分割開催となった錨章祭初日、佐藤真海さんの講演はなかなかよかったと思う。「昔は一生懸命練習に耐え、記録が伸びれば、それを楽しいと感じていたが、今はスポーツすること自体を楽しいと思う」という言葉を聞きながら、私の頭の中に思い浮かんだのは、次のような『論語』の言葉であった。

「これを知る者はこれを好む者にしかず。これを好む者はこれを楽しむ者にしかず(知っている人は好む人にかなわない。好む人は楽しむ人にかなわない。)」

 結果が出るかどうかに関係なく、「楽しい」と思えるのはひとつの境地である。では、なぜ彼女がそのような境地に達することができたのか?確かに、「足は失ったけど自分は失いたくない」という意志、「パラリンピックに出たい」という夢、「自分にないものを問題にするのではなく、自分にあるもので自分を伸ばそう」という姿勢、それらはどれも大切だっただろう。だが、もう一つ重要なのは、彼女が「世界を広げたい」と思い、海外遠征に一人で行くようになり、その中で人間関係を広げ、多くを学んだことではなかったか?

 ここには、私が日頃から諸君に繰り返している「逃げない」「自立する」「背伸びする」という要素が見事に含まれている。そう、トータルに言えば、向上心とは世界を広げようとする意識なのだ。その他の要素は、全て後から付いて来る。


【諸君の最終目標は何か?を問う】

 朝のHRでも話したが、3学年で久々に「特別指導」が行われることになった。このクラスでも、意外な人に欠席や遅刻が見られるようになった。季節の変わり目とは言え、体調を崩す生徒もちらほら見られる。授業への取り組み自体はあまり変わらないと思うが、あちらこちらに「気の緩み」が目に付くのである。

 就職や進学が決まれば、それでいいのだろうか?諸君はそのためだけに高校に入ったのだろうか?世の中の人々は、何のために膨大なお金を払ってこのような学校を運営しているのだろうか?

 知識も技術も無限である。より多くの知識と技術を身に付け、少しでもいい仕事がしたい、世の中の役に立ちたいと思えば、進路が決まっただけで羽を伸ばしてしまうわけにはいかない。頭がいいか悪いかは、学業成績がよいとか悪いとか、先生の話が理解できるか出来ないかではなく、自分の課題を発見し、それを解決させるために努力できるかどうかの違いである。


(裏面:10月2日付け『朝日新聞』より、「いま子どもたちは No,599 歩け歩け[1] 限界まで行きたい」を引用

平居コメント:昨日、授業で少し話題にしたアレだよ。参加する方だけでなく、運営する方も気が遠くなるほど大変な、こんな行事をなぜ実施するのか・・・?「見当がつかない」と言う人は、ぜひ1回挑戦することを勧める。一般向けの100キロレース、毎年各地で何度か行われているからね。食品のI先生、毎年出場しているから、聞いてみるといい。)

(注)記事は、毎年10月に実施されているという山梨県甲府一高の強行遠足についてのもの。男子は24時間で105キロ、女子は9時間で43キロを走るそうな・・・。