春の気配



 昨日の新聞に、教員の異動が載った。私の異動はない。4月から、宮水で5年目の生活が始まる。

 さて、日中は20度近くまで気温が上がり、少し動いただけでも汗ばむほどなのに、ウグイスはまだ鳴かない。なんだか気象異変のようで不気味だとも思うし、単に寂しいとも思う。これほどありふれた鳥なのに、鳴き声の美しさと、姿の見付けにくさにおいて、ウグイスの右に出るものはいない。

 ところが、今日、仙台で昨日ウグイスの初鳴きが観測された、というニュースを耳にした。平年に比べ、15日遅いのだという。そう言えば、昨日は、仙台で梅が開花し、こちらは平年より25日も遅い、という話もあった。我が家でウグイスの声が聞こえず、梅が花を開かないのも当然である。

 平年における仙台のウグイスの初鳴きが、3月11日だとすれば、我が家で毎年3月10〜12日に初鳴きが聞こえるという私の記憶は、ひどく信用ならないものに思われてくる。おそらく、震災の2日後、ようやく家に帰り着いた時に、津波で全滅した南浜町を背景として、のどかに優美に鳴いていたウグイスの声があまりにも強烈な印象として残っているため、その他の年の記憶までねじ曲げられてしまったのではないか、という気がしてきた。

 石巻は仙台よりも多少寒く、平均気温が約1度低い。だから、石巻の気温が昨日の仙台とほぼ同じになるのは3月30日なので、その頃には初鳴きを聞くことができるはずだ、ということになる。何かの事情で死滅した、などという変な心配はしなくて済みそうで、とりあえず安心した。

 話は変わるが、一昨日、久しぶりに艇庫に行った。ホームページ「船の紹介」コーナーに載せている和船「あさなぎ」の写真がお粗末なので、艇庫前に単独で係船してあるという噂を聞いて、撮り直しに行ったのである。確かに、「あさなぎ」だけが海に浮かんでいて、他の船は全て上架(陸揚げ)されていた。

 写真を撮り終えてふと気が付くと、艇庫の陰でカッターの下に潜り込むようにして、航海類型のK先生、S先生、栽培漁業類型のH先生が、せっせと船底のペンキ塗りをしていた。間もなく新入生も入ってくるし、その前にカッターを下架しなくてはならないから、今のうちに船の手入れをしておく必要があるのだ、と言う。数年前までは、業者に頼んでいたのだそうだが、県の財政難→学校予算削減のあおりを受けて、いろいろな作業が教員や助手の手に移り、おかげで忙しくてかなわない、とグチをこぼしていた。必要どころか邪魔になるような数億円の防潮堤は簡単に工事が決まり、始まるし、実習場には、震災前になかった、こんなものいるのかな?と思われるような「ん百万円」いや一千万円を超えるような機械も続々と設置されているのに、必要だと思うものに限って、何万円とか何千円のお金が確保できず、後はお前たちで何とかしろ、となれば、腹が立つのは分かる。

 それはともかく、新入生が入ってくる春、というのは、何となく心浮き立つようでいいものだし、外野である私にとって、K先生たちの作業もそれを実感させてくれるという意味で、「春」であった。


(補)「あさなぎ」の新しい写真は、諸般の事情により、4月に入ったら差し替えます。宮水のホームページ、時々見てみて下さい。