「立場」は難しい



 昨日の午後から、前任校の山岳部引率で山に行っていた。もともと、天気が悪いことは分かっていたが、山麓のキャンプ場に到着早々、しとしとと雨が降り始め、夜中は土砂降り、未明に今日の山行中止を決め、9時過ぎには帰路についた。テントを撤収して、帰りかけたところで晴れ間が見え始めた・・・というのはよくある話。だが、その後、仙台から石巻へ向かう高速バスの中でまた土砂降りとなり、県内各地で豪雨の被害も出たようだから、中止は賢明な判断だった。

 ところで、以前にも少し書いたことがあるが(→こちら)、私は元顧問という立場で同行しているわけではない。私はそんなことは絶対にしない。「引き際」というのは非常に大切なのである。

 私が仙台一高を離れた時、登山経験のある人が後任として入らず、未経験者が顧問になった。もともと、仙台一高という学校では山岳部OB会である「山の会」というのが力を持っていて、主に仙台市内で学生をしているOBが、コーチとして日々現役高校生の指導に当たっていた。顧問というのは、いなければ部活動として認められないから必要だが、大抵は素人であるため、OBが顧問を丁重にもてなしながら「同行していただいていた」ようで、部活はあくまでも現役生徒とOBのものだった。ところが、私が顧問の時くらいから、若いOBの絶対数そのものが少なくなった上、仙台以外の大学に進むOBも増え、今時の大学生の気質の問題もあって、OBコーチが現役生の面倒を見るということがなくなったため、年配OBの力も借りつつ従来のやり方を維持しようとは努めたものの、顧問による指導中心の山岳部へと変質させざるを得なかった。だから、15年くらい前であれば、素人が顧問になっても驚くことはなかったのだが、今は大問題なのである。

 ところが、今書いたとおり、OBが手薄である。幸か不幸か、私は異動先で書道愛好会の副顧問で、土日が部活で拘束されない上、「仙台一高山の会」の特別会員だ。毎春、「山の会」から学校に4名のコーチを登録する際、私の名前を入れておくことが最も好都合となった。1年後に、前任校でも山岳部顧問だった先生が異動してきたことで、私の役割も終わりになればよかったのだが、顧問とOBによる引率という従来の形を何とか維持しようとした結果、若手OBが以前に比べれば同行してくれることも増えたとは言え、「準OB」と言うべき私の出番がまだある、ということなのである。あくまでも「呼ばれて」行くのであり、仙台一高から学校長名の委任状が出ていて、交通費の支給もある。

 私はそもそも同窓会の類いが好きではなく、自分の母校に会費を納めたこともない人間なのであるが(参考→こちら)、それでも「山の会」としてのコーチを引き受けたのは、この集団が例外的に好きだったことによっている。メンバーの人柄の問題も大きいが、何より、思い出話にふけるのではなく、次にどこの山に行くかという話ができる集団だったからだ。これは同窓集団としては特異だろうと思う。自分が関わった生徒が、卒業後、「山の会」の集会に顔を出し、諸先輩と世代を超えて交流し、生涯にわたって登山を続けることは望ましいことに思われた。

 だが、なにしろ今時の高校生である。面倒な人間関係(←「山の会」の人間関係が特に面倒だということではなく、人間関係はすべて面倒だという意味)に積極的に関わろうとはしない。彼らが卒業後も「山の会」に関わるためには、現役時代から「山の会」との接触するようにしておく必要がある。だからこそ、私は山岳部の生徒たちに対して、「私は元顧問ではなく、山の会のおじさんだ」と強調してきたのであり、当初、生徒たちは私のことを「平居先生」とは呼ばずに、「平居さん」と呼んでくれていたのである。

 ところが、それにはやはり無理がある。私の「元顧問」という立場を脱色するのは難しい。現顧問も私と同僚のような態度で接するし、特に問題だったのは、私が県総体や新人大会といった高体連の行事に役員として呼ばれるということである。3週間前にも県総体に行ったが、私は女子隊第2班の班長であり、その班には一高の女子パーティーが含まれていた。その時私が、「山の会のおじさん」でいられるわけはなく、「顧問OBである宮城県水産高等学校在籍の先生」であらざるを得なかった。こうなると、生徒の側も私の側も、一高の山行では「山の会のおじさん」、大会では「先生」などという使い分けをすることは難しいし、煩わしい。そこが曖昧になると、いかにも「元顧問」がいまだに口を挟んでいる、という格好になってしまう。私としては困った事態だ。

 私の気分だけの問題なのか、顧問や生徒もそう思っているのかは知らない。ただ、私の内部で、この居心地の悪さは、回を追って大きくなっている。私が行かなくても、少なくとも冬以外は活動に支障は無いだろうから、「山の会」のことなど考えず、いっそはっきり断ればいいのかな・・・などとよく思う。

 「立場」や「組織」の問題として、多少の普遍性を含むと思い、長々と書いた。失礼。