OECD教員調査と文科省



 先週木曜日の新聞各紙に、OECDが34カ国の中学校教員を対象に行った「国際教員指導環境調査(TALIS)」の結果が載った。今更ながらに、日本の教員の労働条件の過酷さ、劣悪さがよく伝わってきた。いくつかの点を確認しておこう。

(1)勤務時間 1週間あたり53.9時間(平均+15.6時間)

  2番目に長いのはカナダの48.2時間だから、約10%の違いがある。

  頭一つ以上抜け出ている感じだ。

(2)職務の内容として、参加国平均から突出しているのは課外活動指導7.7時間(平均+5.6時間)と一般的事務的業務5.5時間(平均+2.6時間)

(3)勉強にあまり関心の無い生徒に動機付けをしていると答えた教員の割合21.9%(平均−48.1ポイント 参加国中最低)

(4)校長が自分の学校の成果に満足している率59.8%(平均−34.7ポイント 下から2番目)

(5)教員は社会的に高く評価されていると思うと答えた割合28.1%(平均−2.8ポイント)

  平均との差はわずかに見えるが、PISA(国際学力調査)で高得点の国としては、際だって低いらしい。

 

 少し悪意的に、問題のある項目だけを選びすぎだと批判されるかも知れない。確かに、一見いい意味で「平均以上」の項目もある。その典型は、教員の研修に関わるものである。例えば・・・

(6)他の教員の授業を見学し感想を述べることを行っている率93.9%(平均+38.6ポイント)

(7)研修で他校の授業を見学した率51.4%(平均+32.4ポイント)

しかし、これらは決して教員の向上心や、前向きな職場環境を表すものではない。国立教育政策研究所も言うとおり、日本では義務的研修が整備(?)されているからだ。私自身の実感でもあるのだが、とにかく研修の強制はひどいのであって、その結果、「やった」と回答する率が高かったとしても、それが教員の資質を高めていることも、向上心の強さをも保証しない。

 さて、以上は新聞(『朝日』が圧倒的に詳細・丁寧。『読売』は今日が始めて?)でも読めば分かることである。新聞はかなり恣意的に抜粋されているはずだから、オリジナルに出来るだけ近いものに目を通しておこうと、国立教育政策研究所文部科学省のHPで「要約」「概要」「ポイント」といった資料を見てみた。

 私にとって驚きだったのは、文科省が出しているA4版1枚の「結果概要」というものである(→こちら)。今回の調査の結果を、「他の国よりとてもよい」「なかなか困った問題」「他の国よりかなり悪い」「勤務時間」(これらの言葉は「結果概要」にはない。私が意図を汲んで勝手に表現した)という四つのカテゴリーに分けて、20の棒グラフで日本の値と平均値を比較している。特に「勤務時間」については、「教員の勤務時間は参加国中で断トツに長い!人員不足感も大きい」と見出しを付けた上で、「勤務時間の合計」「課外活動」という2本の棒グラフには、わざわざ矢印を付けて、「34カ国/地域中で最長」と注記している。教職員組合のチラシにもそのまま使えそうな勢いだ。文科省も、教員の勤務実態の異常さには、それなりの問題意識があるのではないか?と少し期待を抱く。

 ところが、である。これら四つのカテゴリーの枠外に、矢印で導いて〈今後の取り組みの方向性〉と書かれ、その下には、次の四つが書かれている。

・養成、採用、研修の抜本的改善による教員の資質向上

・学習指導要領が目指す教育の推進

・ICTを活用した教育の強力な推進

・教職員等指導体制の充実が必要

 え〜〜〜っ?どうして今回の調査結果を見て、こんな方針が生まれてくるのだろう?私は、まったく理解できないのである。かろうじてデータと結び付くのは、3番目のICT云々くらいだ。ただ、それだって、調査全体のごく一部であって、重点四項目に入れるのは不自然な感じがする。

 これらは、文科省が「断トツに長い!」と表現した勤務時間を短くする方向にも、校長(上に従順な人が多い)の65%が、その実力を発揮する上で障壁となっているものとして「政府の規制や政策」を挙げるという尋常ならざることを解決する方向にも向かわず、むしろ悪化させる方向に動こうとするものである。データを見ながらどうすべきか考えたのではなく、始めから自分たちのやりたいことは決まっていて、いかなる情報によってもそれを変える気はない、ということを明確に訴えるためにわざわざ書いた、としか思えない。

 と書いていて、私は昨年の「教育課程研究集会」のことを思い出した(その時の記事は→こちら)。県の指導主事が、PISAの結果に基づくなかなか立派な現状分析をした上で、その問題を解決させるための方法として、「何よりもまず、学習指導要領を踏まえた指導、『生きる力』を育成する指導が求められる」と述べたことにびっくり仰天した、という話である。分析のまともさと結論への強引な飛躍が、異常なアンバランスとして衝撃的だったのである。

 こういう精神構造を持つ人たちによって管理される日本の学校は浮かばれない。しかもそれを支えているのが、文科省にいる東大出のキャリア官僚だというのは、「学ぶ」とか「学力」というものの意味と性質について、深刻な問いを突き付けているようだ。

 今回の調査に表れた日本の学校の異常さを思うにつけ、憲法について「諸外国は何度も変えているのに、日本だけが60年以上も変えずにいるのは非常識だ」と叫ぶ石原氏などが、「諸外国の教員が週40時間労働を守れているのに、日本だけが50時間以上も働いているのは非常識だ」と、率先して教員の労働環境を諸外国並みにできるよう頑張ってくれるといい、と思うのだが、もちろん、氏が知事の時の東京を思えば、氏もまた率先して逆行する人である。やっぱりどうしても改善への「希望」は見えない。