空振りの「こどもまつり」



 連日、似たような話になって恐縮だが、新年度初日となる昨日は、休みを取って、家族でコボスタに行った。楽天の「こどもまつり」ということで、予め申し込みをしておくと、外野指定席のチケットを子供無料、大人1000円で手に入れることができたのである。相手は西武、先発は美馬(西武は十亀)、我が家の野球小僧は異常な大興奮である。2時間半前に球場に着いた時には、平日のデーゲームだというのに、多くの家族連れと野球少年たち(チームごとユニフォームを着て来ている)で球場の周りはごった返していた。

 ところが、試合開始の約1時間半前に、スタンドに入ったところで、非情にも悪天候のため試合中止のアナウンスが流れたのであった。その時、雨はぱらぱらとしか降っていなかったので、えっ?こんな雨で中止?!今日は無料入場者が多いので、雨をこれ幸いと中止にしたんじゃないの?と疑ってしまった。何しろ、おそらく、「こどもまつり」の振り替えはないのである。グチをこぼしている客は相当数いたが、ヤジが飛ぶわけでも、係員に詰め寄る人がいるわけでもなく、穏やかに淡々と「しかたねぇなぁ」と帰って行く人が多かった。あぁ、日本だなぁ、と思う。

 結局、野球を見ることは出来なかったけれど、久しぶりにコボスタのスタンドで球場内の様子を眺めながら、やっぱりずいぶん大きくなったなぁ、と感心した。毎年のように新しい席を増設しながら、今もまた、外野席の奥に新しいスタンドを作っている。明るく華やかな電光掲示の数々は、先日も感心したとおりだ。場内アナウンスだって、やっぱりプロだ。

 昔は何もなかった。内野はコンクリート製の座席(?)で、外野は芝生。私が生まれて初めてプロの試合(ロッテ対東映だったかな?)を見た小学校2年生の時は、照明装置もなかった。照明が付いたのは、それから2〜3年後である。先日、職場の若い野球部顧問に話をして驚かれてしまったのだが、試合が終わると、その瞬間、外野で見ていた少年たち(私も)は一斉にグランドに飛び降り、ダッグアウトまで選手を見に(触りに?)走った。そんなことが出来る構造になっていたし、許されていたのだ。それ以外、ファンを楽しませるための演出というものは一切なかった。音楽も、始球式も、チアガールも、マスコットキャラクターも、そしてもちろん映像も・・・。野球の試合は、ただ野球の試合をするだけのものであり、楽しいとかつまらないとかは、全て試合についてだけの評価だった。

 思えば、野球の試合そのものは、当時も今も変わらない。ということは、これだけ演出=ファンサービスが増えたということは、野球の価値が相対的に低下したということではないのだろうか?もちろん、だから試合がつまらなくてもいい、とは誰も思っていないだろうが、野球さえあればそれで十分、演出はうるさい、それが本来なのではないかと思う。

 それにしても、せっかく休みまで取って行ったのに、試合が見られなかったのは私も残念だった。球場では「ふ〜〜ん?」みたいな顔をしていた我が家の野球小僧は、車の中でべそをかいていた。雨だから野球ができないというのは当たり前の話で、例によって自然に逆らい、ドームまで作る必要はあるまいに、と思っていた私だが、今日、球場に集まり、何をするでもなく帰って行ったあまりにも多くの人の、費やした時間と金銭の和の膨大さを思う時、ドームが欲しくなる気持ちはよく分かった。

 その後、雨はだんだんと強まり、家に帰り着いた頃には本降りだったことが、あきらめを付けるための救いだった。