マジュロに寄った宮城丸



 宮水航海類型3年(N3)の生徒を乗せた宮城丸が、今年も4月20日過ぎに遠洋航海実習に出発した話は、既に書いた(→こちら)。その翌日から、なんとなく『石巻かほく』の「海のたより〜漁業通信」欄を見るのが習慣化している。福島漁業無線局に航海中の漁船から入った情報を羅列してあるスペースだ。かつては宮城漁業無線局だったが、東日本大震災で無くなってしまい、漁業通信が福島扱いとなったのだ。以前『それゆけ、水産高校!』(成山堂書店、2012年)に書いたようなPCの校内サイトも、今はない。

 出港から10日ほど経った5月2日、例によって新聞を見ると、緯度・経度、針路、速力、風向・風力、天気、気圧、気温・水温というお決まりのデータの後に、「都合によりマジュロ向け中」と書いてある。えっ?これ何?マジュロってどこ?私はあわてて地図で探した。マジュロとは、マーシャル諸島共和国の首都で、ハワイの西北西3000キロくらいの所である。もちろん、寄港の予定はなかった。ひどく気になった。乗船している誰かが重病に罹ったか、エンジントラブルだと思った。それにしても、わざわざ大きくコースを変更して(=余計な油を使って)、予定外の港に入るからには、よほど深刻な問題が発生したに違いなかった。私は、まず航海類型長のO先生に電話を掛けた。出ないので、マリンテクノ(機関工学)類型長のM先生に電話を掛けた。つながった。先生は既に事情をご存知だった。生徒ではなく、乗組員の一人が、指を複雑骨折したのだという。それなりに重傷ではあるが、命に関わるものでもないということで、私は安心した。

 事情が分かると、マグロ延縄実習(操業)が始まる前に、大怪我をするような作業ってあるのかなぁ?という疑問が浮かんできたが、同時に、ハワイ(ホノルル)だけでなく、マーシャル諸島にも寄港できるN3に対する、羨ましさのような感情が、強く湧き起こってきた。太平洋戦争の激戦地であり、いや、それよりも水爆実験が行われ、第5福竜丸が被爆した場所として有名だが、風景としては美しい場所なんだろうなぁ、と想像する。

 ところが、

 5月4日記事「4日10時マジュロ港外着予定」

 5月5日記事「マジュロ港外発沖へ」

 と続く。あれれ?どうやら宮城丸はせっかくマジュロまで行きながら入港せず、はしけか何かで怪我をした乗組員を下船させると、そのまま引き返して、漁場へと向かったらしい。私だったら残念だな。なんだかもったいない。

 そして、今日の記事は「準備完了泊中明日初縄予定」であった。当初予定していた漁場に到着し、延縄の準備を終えたらしい。明日がいよいよ操業初日だ。記事の記述、まるで中国の歴史書のごとく、簡潔明瞭な中に情景が思い浮かんでいいな、と思う。

 予定表によれば、「5月3日操業開始」とあるので、ちょうど1週間の遅れということになる。船の運航スケジュールの関係で、帰港の日は動かせないので、操業期間はそのまま短縮(5月29日終了)となるだろう。

 1週間の操業短縮は痛いが、その分、1日1日の漁獲量が増えるといい。そして何よりも、これ以上トラブルが発生せず、無事に実習を終えて帰港できるように祈りたい。