せっせと会社を回る



 この二日間、自分の授業が終わると学校を出て、地域の会社回りをしていた。宮水という専門高校(実業高校)の就職担当者として、一度会社回りをしなければとは、4月の始めから思っていたのだが、何しろ電話を掛けるのが非常に苦手、時間の調整もなかなか難しい、と重い腰を上げられずにいた。

 そうこうしているうちに、宮水の進路指導部で、卒業生の動向調査をすることになった。高卒者(大卒者も?)の離職率が高いということがよく言われるが、実際のところ、どれくらいなのだろう?就職した生徒は、真面目に仕事をしているのだろうか?といったことを、過去6年だけさかのぼって調べることにしたのである。

 私のように高校内で暮らしている人間にとって、生徒の就職は3年間の高校生活のゴールである。生徒自身は、私たち以上にそんな意識を持っているはずだ。しかし、就職はその後の大人としての長い人生のスタートに過ぎない。それを軽く考えて、安易に退職されては困る。今回の調査の結果を、現役の高校生に「働く」ということを真剣に考えるための材料として提供したい。そんな意図もあった。

 校長名の依頼文書を作り、過去6年間の卒業生の名前を拾い、宮水に対する要望や意見を書く欄も付けた調査票を用意した。遠隔地は郵送するとしても、近い所は挨拶がてら直接届けたい。いざとなったら封筒(お手紙)を置いてくるだけでいいのだからと、事前に電話を掛けるのはやめた。一言「お願い」だけで終わるのか、いろいろな事情を直接伺うことになるのかも分からないので、そもそも時間が読めない。

 昨日は15:20に学校を出て女川へ、今日は13:00に出ると学校周辺と魚市場や水産加工会社のある魚町方面に行った。会社の事務所に人がいて、あまり失礼にもならないと思われる18時頃までで、合計32の会社を訪ねた(頑張った!!)。今日は、特に、暴風警報が発令されるほどの強風だったので、自転車で会社を探し歩くのは大変だった。

 事務員が封筒を受け取って終わりという会社もあったが、突然の訪問であったにも関わらず、社長など、それなりの方がわざわざ出て来て、いろいろと話を聞かせてくれる会社も多かった。「○○、この子辞めたよ」という言葉をたくさん聞いた割に、冷たくあしらわれることもなく、なんだか楽しかった。会社の仕事の話や、人を使うということについての苦労話は、どれも面白かったのである。加えて、会社のにおい。さすがに水産加工会社の魚臭を「いい」とは感じないが、鉄工所やエンジン関係の会社の鉄や油のにおいは、いかにも労働の香りが漂ってくるようでいいな、と思う。

 そして、こうして会社回りをし、いろいろな人の話を聞いていると、日頃相手にしている生徒達の社会的価値というものに目を見開かされる。教科の勉強で付き合っていると、その学習意欲の低さにうんざりすることもしばしばなのであるが、会社の側からの視点で見ると、正に未来へ向けて希望を托すべき、期待されている人材なのだ。もちろん、会社だって、当たり外れが大きく、辛抱も足りない高卒生を鍛えていくのは大変で、裏切られることもしばしば、諸手を挙げて期待しているわけではないだろうけど、確かに、若者が入って成長し、重要な戦力とならない限り、会社の未来はない。会社の未来がないということは、日本の未来もないということだ。

 少し大きな視点で、生徒や教育活動を考えられるようになったような気がする。明日、もう1日、会社を訪ね歩いてみるつもりだ。