インドネシアの森林火災


 1日に毎日新聞で、一昨日は朝日新聞で、インドネシアの深刻な森林火災の話を読んだ。共通するのは、7月から10月までの4ヶ月間で200万ヘクタール(=2万平方キロ)の森林が焼け、膨大な量の二酸化炭素が放出されたということだ。二酸化炭素の量を新聞は「ドイツの1年分」(朝日)、「日本の年間排出量を超える約16億3000万トン」(毎日)と書く。乱開発による泥炭地の乾燥や、野焼きといった人為的な要素の強い火災らしい。朝日によれば、この火災による煙害はシンガポールやマレーシアで深刻な大気汚染を継続的に引き起こしているが、一時はタイ、フィリピンにまで及んだという。正に地球規模の災害だ。

 9月末にシンガポールへ行って、交通量も車種も東京と変わらないのに、シンガポールの空気はなぜこんなに汚れているのだろう?という記事を書いた(→こちら)。その後、例の『データブック オブ・ザ・ワールド2014年版』を見てみて、一人あたりの年間エネルギー消費量が、石油換算で日本が3003㎏であるのに対してシンガポールは4334㎏であることを知った。今の日本の1.5倍近い石油を消費するというのは尋常ではない。思えば、シンガポールは赤道直下の熱帯でそれなりに暑いのだが、どこでも建物に入れば快適に冷房が効いているため、暑さに苦しむという感じがしない。それは、この驚くべきエネルギー消費によって支えられていたわけだ。世界最大級の航空会社を抱えているという事情もあるだろう。とまあ、ここで私は大気汚染の原因が分かったような気になってしまったのである。ところが、膨大なエネルギー消費→深刻な大気汚染という短絡的理解は、おそらく間違っていたのだ。

 朝日によれば、シンガポール政府は、昨年施行した「越境煙害法」に基づき、インドネシアでアブラヤシ農園を経営する5つの企業に対し、農地を広げるための野焼きを止め、森林火災に対する対策を取らなければ法的措置をとる、と警告を出した。確かに、シンガポールは独立した島国とは言っても、マレーシアとは歩いて15分くらい、インドネシアとも船で30分だ。日本でさえ、中国の大気汚染の影響を受けるわけだから、火災の場所にもよるけれど、外国から強い影響を受けて何の不思議もない。9月に見た「ダイダイ色の太陽」「薄暗く濁った月」は、主にインドネシアの森林火災によって作り出されていたのだ。

 さて、今日はシンガポールの大気汚染の原因が分かった!という話ではない。温暖化の問題である。どちらの記事も、今回の森林火災は世界の気候に影響を与えかねないレベルだと言っているが、これは「想定外」の事態だろう。だが、私は前から学者の予想通りには行かない、人々が自然に対して謙虚にならなければ、むしろ想定以上のことが必ず起きる、温暖化は予想されている最悪のシナリオ以上に進む、と言い続けているのである(例えば→こちら)。今回の出来事はそれを証明する事例の一つになる。

 昨年の4月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府パネル)第5次評価報告書には、面白いことが書いてあった。4度以上の気温上昇が起こると、世界的な食糧安全保障に大きな影響を与える可能性があり、「影響は連鎖して武力衝突の危険性が高まる」ということだ。科学者がここまで書いたのは立派である。そう、住む場所や食べる物に困った時、人間は武力によって奪い合いを始める可能性が高く、その奪い合い(武力衝突=戦争)によって加速度的に多くの二酸化炭素を放出する。放出される二酸化炭素の量が予測できれば、温暖化の進行も予測できるが、放出される二酸化炭素の量は人間の行動によって変化する。だから想定はアテにならない。もちろん、科学にこの世の全てが見えているわけではないことからしても、想定は二重にアテにならない。

 そして残念ながら、人間はさほど賢くない。仙台空港の経営計画(→こちら)にしても、被災地復興巨大土木工事(→こちら=あくまでも一例)にしても、人間の愚かさを象徴するようなことが、誰の抵抗を受けることもなく、いや、むしろ喝采を浴びながら日々進められ、思いを改める気配など微塵も感じられない。やはり、どこをどう考えても、温暖化は想定を超えて進むしかない。