野球の国際大会を考える



 日本シリーズが終わったも束の間、プレミア12なる国際試合が開催され、我が家の野球小僧はテレビにかじりついていた。先週末、それがようやく終わった。

 これまでたびたび書いてきたとおり、私も、「熱狂的」とか「気違い」とまでは言えないものの、まあまあ野球好きな方である。だが、この国際試合はあまり賛成できない。ただの「商売」だな、と思う。

 いろいろな人が既に言っていることだろうが、何しろアメリカが3A以下のマイナー選手ばかりでチームを組んでいる中、日本がトップ選手でチームを組んでいることをどう理解すべきだろうか。しかも、日本代表の選手が本気で勝負をし、その勝敗を真剣に受け止めているとすれば、彼らがなぜその状態を「屈辱」と感じないのか、私には理解できない。

 問題は、何が「本」で何が「末」かということである。サッカーなら、間違いなくワールドカップが「本」である。ワールドカップへの出場権を勝ち取って、本大会でも躍進できるようにするためには、A代表を強くする必要があり、そのためには層を分厚くすることが必要だからJリーグその他のチームと試合がある。この言い方はいささか語弊があるのだけれど、ワールドカップを「本」とし、それを中心に全てを動かすことで、日本のサッカー文化が隆盛するという発想があるのは間違いないだろう。

 では、野球においてWBCを「本」と考えることはできるだろうか?それは難しいだろう。サッカーの歴史というものを私は詳細に知らないのだけれど、野球に比べるとはるかに自然発生的なスポーツで、しかもヨーロッパ文化であるために、歴史が古く、植民地化とともに世界中に広がり根付いた。一方、野球は新興国アメリカで完成され、世界中に文化として浸透するチャンスが少なかった。そこで、アメリカは今でも国内リーグを世界最高の舞台と考え、メジャーリーグの国内決勝大会をワールドシリーズと称し、怪我の危険性回避と休養のために、WBCを始めとする国際大会にはメジャーの選手をほとんど出さない。

 この状態を崩すためには、ナショナルチームなど編成せずに、各国の国内リーグの優勝チーム同士の強者決定戦をする方がいい。その強者決定戦で、ワールドチャンピオンがしばしば負けるようなことがあれば、アメリカも認識を変えて、国単位での対抗戦に本気になるということもあり得るだろう。

 しかし、強者決定戦をやるにしても、野球は、サッカーやラグビーに比べると偶然に左右されるスポーツなので、トーナメント形式はふさわしくない。最低でも、各チーム同士3試合はしないと、本当の強さは分からないだろう。そうなると、出場する選手の負担が大きすぎる。ペナントレースを100試合強くらいに減らすことが必要だが、強者決定戦に進めるのは1チームだけなので、そうすることは興行的マイナスが大きすぎる。ワールドカップのように4年に1度にすると、その年の優勝チームだけが、たまたま世界王者決定戦に進めることになってフェアではない。・・・と考えてくると、やはり、野球の国際大会を合理的に成立させるのは難しい、ということになる。とすれば、やはりペナントレースこそが「本」で、プレミア12、WBC、日米野球といったその他の試合は全てオマケ=「末」という位置付けにせざるを得ない。

 詳細には分からないが、ペナントレース中の選手達の生活というのは過酷だろうと思う。巨人かヤクルトかDeNAに所属して、東京界隈に住んでいれば、自宅から通える球場が3つあるので、遠征は1−1/2(ホーム)−1/10(アウェイ=首都圏)−1/10(アウェイ=首都圏)=3/10で、シーズンの3分の1弱しかホテル暮らしをする必要はない(計算が面倒なので交流戦除く)。一方、楽天日本ハムソフトバンク、中日、広島、阪神の選手は、自宅から通える球場が本拠地しかないので、シーズンの半分はホテル暮らしである。自宅に居る時でも、ナイターが多いので、子どもとは生活時間が大きくずれる。試合のない日がもともと週に1日の上、それが移動日に当てられたりする都合で、休日も非常に少ない。150日間連続勤務に近い状況があるのではないだろうか?肉体労働としても過酷であるのに加えて、ファン(マスコミ)からの厳しい視線にさらされるストレスも尋常ではないだろう。シーズンが終わった時には、正に精根尽き果てた状態になっていておかしくない。

 人間にはメリハリというものが必要だ。頑張る時には本気で頑張る。休む時には徹底的に休む。バランスを間違えなければ、休むこと、遊ぶことが非生産的だなどということはない。それでこそ、ペナントレースで質の高いパフォーマンスが見せられると言うものだ。メジャー・リーガーがプレミア12に参加していなかったのは、お金に困っていないというだけではなく、高いレベルにいるからこそ、そのような要諦をよく知っているのではないのかな?と想像する。

 本末転倒を起こし、大切なことを疎かにしながらも、絶えず何かをしていれば頑張っているという充実感に浸れるという、今時の学校でよく見られるようなことを、プロ野球の世界でして欲しくない。なまじ真面目であるために、プレミア12のような「目標」を設定し、ナショナルチームなどと言っておだてれば、選手が(試合の意味も、自分の選手生命も考えず?)本気になってしまうというのも困りものである。

 緊張感に満ちた半年間のペナントレースで手に汗握り、日本シリーズが終わったらストーブリーグを楽しむ。それで十分ではないか。四季のはっきりとした日本の風土にもよく合って、特に日本人には馴染みやすいサイクルであるようにも思う。