メンデルスゾーンの「エリア」



 今日は、仙台フィル第297回定期演奏会に行った。山田和樹指揮、メンデルスゾーンのオラトリオ「エリア」である。今年は、3月に仙台宗教音楽合唱団によるブラームス「ドイツレクイエム」の演奏会もあるので、合唱つき大規模声楽曲の当たり年だ。

 「エリア」がかつて仙台で演奏されたことがあったのかどうか・・・もしかすると初めての出来事かも知れない。昨年の1月頃、2015年度仙台フィル定期演奏会でこの曲が演奏されることを知った時、私は大喜びしたのだが、一方、「エリア」と言えば、昔、NHK交響楽団サヴァリッシュの指揮で、第1000回記念演奏会で演奏した時の印象が強烈なので、297回という半端なというか、ごく当たり前の定期演奏会でこんな曲やっていいのかなぁ、という戸惑いのようなものもあった。

 我が家にはサヴァリッシュ指揮のCD(N響のライブではなく、ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団によるスタジオ録音)と、なぜか(本当に「なぜか?」だな)ヴォーカルスコア(ピアノ伴奏譜)とがある。何しろオラトリオ。筋書きも何も分からないのでは面白くないので、正月以来、楽譜と『名曲解説全集』を片手に寸暇を惜しんで予習をした。今回は演奏時間が長いので、開演が30分早い。余裕を見て、学校は3時に脱走(笑)。

 数日前に、ちょっとした事情で仙台フィルのホームページを開いたら、第297回定期は土曜日のチケットが完売と書いてあった。仙台フィル定期のチケットが完売するというのは本当に珍しい。おそらく金曜日も満席に近いのだろう、と思って行ったら、9割くらいの入りだった。いつもより空席は少ないとは言え、仙台にはたくさんの市民合唱団や大学合唱団があって、この手の曲が好きな人も多いはずで、会場である日立システムズホールはたった800席(2日で1600)なのだから、どうしてこうなるのかは理解に苦しむ。

 演奏は本当に素晴らしかった。まず第一に合唱(仙台フィル「エリア」合唱団。指揮は今井邦男)。この曲は合唱の果たす役割が大きいだけに、これは決定的だった。東京混声合唱団からのゲスト4人に、仙台のグリーン・ウッドハーモニーのメンバーを中心とする103名の、基本的にアマチュアの臨時合唱団である。それでも、私の知っている顔を見る限りセミプロ級が揃っている。しかも、1年前から練習を重ねてきたらしい。本番までに、山田和樹の指導が何回入ったのか知らないが、上手く仕上げたものである。

 次に音のバランスである。会場が狭いため、いつもの演奏会でも音が飽和してしまって、音楽に聞こえなくなる時がある。しかも、今日は大編成のオーケストラと合唱である。心配しながら行ったのだが、杞憂だった。なぜかは分からないが、全ての演奏者が渾身の演奏をしていると見えるのに、音が飽和せず、オーケストラと合唱のバランスも最高だった。また、それぞれの楽器の音も、聞こえて欲しいところで、聞こえて欲しい音量で鳴っていて快感だった。これも指揮者の実力なのかどうか・・・?

 今や世界中で引っ張りだこの山田和樹仙台フィル・ミュージックパートナー)について、私は評価を定めかねていたのだが、これまた本当にすごいと思った。パーヴォ・ヤルヴィに劣らず明瞭な棒で、演奏者がそれに極めて敏感に反応する様子が、見ていて非常に小気味よい。冒頭こそ少し安定を欠いたものの、全曲にわたって、正に切れば血が噴き出すような演奏だった。後から後から、世界中のオーケストラといろいろな曲を演奏するのだろうに、こんな2時間半近くもかかる曲をよく自分のものにして、これだけの演奏に出来るものだ。すごい才能なんだろうなぁ。

 以前から、一度生で聴いてみたいと思っていた「エリア」を、これだけ質の高い演奏で聴けたのは幸せだった。指揮者は、最後の「アーメン」のフェルマータを止めた後、指揮棒を長く(10秒くらい)空中で止めていた。おそらく、その間は拍手をされたくなかったのだろう。私も余韻に浸っていたかった。しかし、演奏が終わって2秒くらいで拍手とブラボーは始まってしまった。指揮者は嫌そうな表情は見せなかったけれども、これが、今日の演奏会の汚点と言えば汚点だ。演奏者には気の毒であった。 

(補)

ステージ上にテューバが並んでいて驚いた。えっ!?「エリア」にはテューバが使われているのか?合唱の下支えのような役回りなので、CDで聴いていても気付かなかったのだ。次の瞬間、この楽器って、いったいいつ生まれて、どのあたりから使われるようになったのか、私自身が無知であることに気が付いた。ベートーヴェン(1827年没)は使っていないと思う。以前、ベルリオーズの「幻想交響曲」(1830年)について勉強した時、楽譜の指定がテューバではなく、その前身となるオフィクレイドであることを知って驚いたことがある。時期的に考えれば、「エリア」(1847年)もオフィクレイドのように思うが、我が家には総譜がないので分からない。帰宅してから調べても、そもそもテューバの歴史そのものがよく分からない。宿題を与えられたような気分である。