見た目の印象・・・政権支持率について

 金曜日の夜、石巻市内で酒を飲んでいた。特別あやしいメンバーではないのだが(笑)、政局の話になった。なぜ、安倍政権はこれだけめちゃくちゃなことをしていても失速しないのだろう?いまだに支持率が50%を超えているというのは、日本人のバカさ加減を象徴しているにしてもひどすぎる、というような話であった。(先ほど見たNHKの世論調査では48%に下がっていた。まだまだ・・・。)
 10日ほど前のことだっただろうか?記憶が非常に曖昧で、日にちも掲載紙も憶えていないのだが、朝日新聞だったような気もする。世論調査についての大きな特集が組まれていた。少し記憶に残ったのは、安倍政権を支持する人が挙げる理由として、「他の内閣よりもよさそうだから」が多いという指摘があったことだった。(先ほどのNHKでも支持の50%がそれだった。)
 私はいつも、この選択肢を非常に不可解なものだと感じていた。理由というのはあくまでも、なぜ他の内閣よりよさそうに見えるかであって、「他の内閣よりよさそうだから」だけでは理由にならない、というのが私の思いなのだ。しかし、その記事を読みながら、ははぁなるほど、と少し分かってきたことがあった。それは、安倍晋三以外の誰が首相になればよりよいと思えるか、ということだ。確かに、現政権はひどい。だが、この人だったらいいな、という顔がぱっと思い浮かぶかと言えば難しい。その感覚が、「他の内閣よりよさそうだから」という選択になるのだ。「他の内閣より安倍内閣がいい」という積極的選択ではなく、ろくな政治家がおらず、政党がないために「他の内閣というのが思い浮かばない」、ではとりあえず・・・という極めて消極的な選択である。
 更に、内政については非常に問題が大きいが、世界各国も経済成長やテロ対策を強い問題意識として持つ中で、国際会議における首相の態度と発言は、国会でのそれほどめちゃくちゃではない。むしろ、悪く言えば狡猾に、良く言えば柔軟に立ち回り、マイナスポイントが少ない。
 私は酒席で、安倍首相の外見を問題とした。
 高校で身だしなみの指導や面接練習をする時に、「人は見た目の印象で8割が決まる」というようなことを言う人は多い。心理学的にどれほどの客観性のあるデータなのかは知らない(メラビアンの法則は条件が違う)。が、私たちの生活実感からしても、「8割」かどうかはともかく、見た目の印象=第一印象の影響力は大きいだろう。先日問題とした道徳心理学者・ジョナサン・ハイト(→こちら)も、「ハンサムな人や美人は、何をしようと、自分に有利な解釈を他人から得られるケースが多い」「陪審には魅力的な被告を無罪に裁定する傾向があり、また、そのような人が有罪宣告を受けると、裁判官は軽い刑を言い渡しがちだ」という報告を紹介している。
 さて、困ったのは安倍晋三の外見だ。身長は175㎝で日本人としては高め。肩幅ががっしりしていて、国際会議の記念写真を見ていても、各国首脳の間に立って見劣りがしない。顔つきもなかなかのものだ。日頃の言動を知らずに見れば、温厚かつ哲学的ないい顔に見える。自信満々風は困ったことだが、おどおどしていて弱そうであるよりはよい。教養や優しさを含めた人間の品性というものは顔に出るのが普通だが、この人についてはその法則が当てはまらないのである。海外へ行って、色々な人と話をする時にこれは武器であり、国内的にも力を持つのではないか。
 かつて朝比奈隆という指揮者がもてはやされていた。特に80歳か85歳を過ぎてからは、演奏会のたびに、おそらくはその日の演奏の質とは関係なく、聴衆が延々とスタンディング・オベーションを続け、オーケストラが引き上げた後のステージに呼び出された。ライブのCDもおびただしい。死後、既に15年以上がたち、今や名前を聞くことはほとんどない。私も、特に彼の指揮するブルックナーベートーヴェンには評判通りの名演が多いと思っているが、一方で、死後急速に衰えてしまったと見える彼の人気というのは、音楽の質よりも容姿風貌による部分が大きかったということなのではないか、と想像している。
 タテマエよりもホンネ、見た目よりも実質、とは思ってみるけれど、なかなかそれは難しい。加えて、代わりになる人が思い浮かびにくい。これらの結果として、非常に困った問題の多い政権でありながら、本当にやむを得ず支持率が高止まりしているということなのではないか。単に、彼を支持する日本人はバカだ、と切り捨てられない問題である。これもまた神の仕組んだ罠だろうか?