2人だけの合唱部員

 昨日は現在勤務する塩釜高校のオープンキャンパスだった。1週間ほど前の職員会議で、申込者が1120名(生徒が900名弱。残りは保護者)に達しているという話を聞いた時は仰天した。例年、入試競争率の高い学校であることは知っていたが、定員(400名)の2倍を超える参加者というのはやはり驚きだ。定員160人の1倍が遙か彼方の目標だった水産高校から来たからなおさらなのだろう。しかし、それは塩高が宮水に比べ2倍以上の努力をしているから、ではない。生徒集めの努力は、むしろ宮水の方が圧倒的に熱心だ。つまりは、仙台圏(仙台駅から電車で15〜20分)という地の利、普通科中心という学科構成によっているだけなのである。まったくこの世は不条理だ。
 普通科の高校なんて、オープンキャンパスやったって見せるもの無いよなぁ、塩高には商業科(名称はビジネス科)もあるが、こちらだって説明以上のことはなかなか出来ない、水産、農業(=見に行ったことないけど)、工業のように、実習施設がないとやっぱり盛り上がらないなぁ、と思っていたら、まったくその通りであった。
 私は受付係。ただ、申込者が1100名を超えるとなると、申込者の名簿と照合しながらの受け付けなんて出来っこないので、手当たり次第に資料を手渡すだけである。出欠は大学の授業と同じく、資料に挟んであるカードに記名してもらい、回収するというやり方だ。
 それまでのからっとした天気が嘘のように、梅雨そのものといった蒸し暑さの中、西キャンパスの体育館に集まった1000人ほどの人たち(架線のトラブルでJRが大きく遅れ、来られなくなった人が200名ほど出た模様)を相手に、パワー・ポイントを使って普通科、ビジネス科それぞれの説明が行われただけであった。終了後、希望者を対象とした校内見学ツアーは行われたが、これまた、ただの教室が並んでいるだけである。
 後片付けを手伝った後、手持ちぶさたなので、中学生向けに公開されている部活動をいくつか覗いてみることにした。やはり生徒が生き生きと活動している場所は、見ていても面白い。そして、最後に行ったのは、東キャンパスの音楽室を活動場所にしている合唱部であった。私が入ろうとした時には閑古鳥が鳴いていたのだが、私がまるで引き連れでもしたように、私の後から15人ほどの中学生がぞろぞろと入ってきた。それを相手に、合唱部の諸君は2曲演奏してくれた。部員は15人ほどしかいないのだが、まずまずちゃんとした合唱になっている。
 私が感心したのは、たった2名しかいない男子生徒が、臆することもなく一生懸命歌っていたことである。
 私は少数派が好きだ。「長いものには巻かれろ」「寄らば大樹の陰」・・・利害打算で生きる人間や、主体性のない人間は絶対に少数派にはならない。その逆で、少数派は、信念を持ち、自分と向き合って誠実に生きる人間である可能性が高い。ただでさえも、高校で見ていると、男子は女子に比べて精神的に弱い傾向が強い。多数の男子に少数の女子が混じっていても、女子はのびのびと生活できるが、その逆は難しいようだ。まして、音楽系の部活(特に合唱?)に男子が入ることは、やや柔弱に見られかねないというハンディを伴う。そんな中で、歌うことが好きだという自分の気持ちに忠実に合唱部に入り、自分の声がむき出しになりやすい状態で、10名あまりの女声に引けを取ることなく歌うというのは大変なことだ。
 人数も人数なので、正式なコンクールで大きな賞を取るといったことにはならないのだろうけど、そんなことには関係なく、彼らの存在と歌声に対する感動があった。