「しらせ」・・・傾斜53度の驚き

 ラボ・トークが終わって、週末は部活で山に行っていた。仙台一高と合同で、と言うより、まぜてもらって沢登りの体験会である。場所はいつもの大行沢(おおなめさわ=名取川源流二口水系)。
 今日は、仙台の連続降雨日数記録(36日!)が途絶えた記念すべき晴れ。絶好の沢日和だったのだが、1ヶ月以上毎日雨が降ったことの影響は大きい。例年の2倍以上の水量に圧倒され、危なくて仕方がないので、登山道と沢を行ったり来たり。生徒を楽しませ、なおかつ、危険のない沢登りというのは難しい。肉体的にも精神的にもすっかりくたびれて帰宅した。
 ところで、昨日はキャンプ場まで移動するだけだったので、14:00学校出発とし、午前中は、仙台港に来ている南極観測船「しらせ」の見学に行った。実にドタバタと忙しい。
 車を多賀城駅の駐車場に止め、シャトルバスで高松埠頭に行く。
 「しらせ」は、運航を自衛隊が受け持っている。シャトルバスも自衛隊だ。驚くべきことに5分おきである。運行しているのが自衛隊とはいっても、「しらせ」は学術調査のサポート船であり、一般公開には理科教育の振興・啓蒙という機能がある。だから腹も立たないが、これが普通の自衛隊艦船見学会だったら、税金とエネルギーの浪費だ、と腹の立つところだ。
 かねてより写真でだけは見たことのあった「しらせ」の実物を見た感動は大きかった。見学そのものは、甲板とブリッジ(操舵室)、ラボがあればラボ、それくらいしか見せてくれないだろうなぁ、とあまり期待していなかったのだが、展示の資料もそこそこ充実していたし、居室や食堂は見せてくれたし、一応満足して帰って来た。
 一番驚いたのは、ブリッジにあった傾斜計だ。傾斜計というのは、どの船にも付いている時計のような形状をした単純な機械である。船がどれくらい左右に傾いているかが表示されるのだが、針が3本あって、1本は現在の傾斜を示し、2本は体温計と同じく、前にリセットした時以降左右の最大傾斜の角度で固定される。つまり、航海中最も傾いた時で何度か、ということが表示されるようになっている。昨日の「しらせ」の傾斜計は当然0度であったが、その下に、かつて最大傾斜を記録した時の写真が表示されていた。
 それによれば、「しらせ」が記録した最大傾斜は、平成13年12月12日(ということは先代「しらせ」だな)、23:57、左へ53度というものだ。「暴風圏を抜け昭和基地を目指し西へ航行中」とだけ説明されていて、記録した場所についての具体的な経度緯度は書かれていない。
 53度!!もちろんこれは上を90度とした時の53度ではなく、0度とした時の53度なので、ほとんど横転寸前と言ってよいほどのものすごい角度だ。4年半ほど前、宮城県水産高校の実習船「宮城丸」が、風速55mの爆弾低気圧に突っ込んでしまい、満身創痍で帰港した時(→その時の記事)、傾斜計が指し示していたのは43度だから、53度がいかにすごいか少しは想像できよう、というものだ。ヘリコプター3機と昭和基地に届ける56個のコンテナを始めとする大量の荷物を積んでいながら、荷崩れも起こさず、横転もせずに姿勢を立て直すというのは驚異である。
 「吠える40度、狂う50度、絶叫する60度」という言葉があるというのを、私は、現在第58次越冬隊で2度目の南極に行っているドクター・大江さんから聞いたことがある。南緯40度以南というのは、1年を通して絶えることなく強風が吹き、「吠える」「狂う」「絶叫する」と形容されるような猛烈な時化の状態にあるらしい。45度を超えて傾いた船の中が、いったいどのような状態になるのか、一度見てみたいものだと思う。
 先日のおしょろ丸には、教員として南極(夏だけ)に派遣されたことのある函館の小学校教諭M先生が乗っていて、私は話を色々と聞くことが出来た。「しらせ」を目の当たりにして、船に非常に弱い私ではあるが、中学校時代に初代南極越冬隊長・西堀栄三郎の著書で南極を知り、以来ずっと憧れ続けてきた南極に、やはり一度行ってみたいという気持ちがどうしようもなく高まってきた。いいなぁ、南極。