これもオオカミ少年・・・渡島駒ヶ岳に登る

 下船の翌日、8月20日は渡島駒ヶ岳を登りに行くことにしていた。5:51函館発普通列車渡島砂原(おしまさわら)まで行き、砂原岳(1112m)と駒ヶ岳(1131m)に登って銚子口駅に下りる、というおよその計画である。二つの山は、どちらも駒ヶ岳の噴火口(カルデラ)の外輪山で、別の二つの山というわけではない。砂原岳には、全国に960しかない一等三角点の一つがある。
 駒ヶ岳という山は、遠くから見ると本当に美しい。鶴が舞い降りている姿、と言ったらよいだろうか?優美でなだらかな山の北端に、針のようにとがった岩峰が載っていて、ピッと天を衝いている。噴火湾や大沼を眼下に見下ろすロケーションも最高だ。幸い、私が北海道に居た6日間で最高の天気が予想されていた。
 出発前、駒ヶ岳について若干の下調べをしていて、登山自粛勧告が出ていることを知った。森町のホームページには、以下のように書かれている。

「現在、北海道駒ケ岳は火山防災上の措置として、山頂火口部から半径4㎞の区域内への立ち入りを規制しています。(中略)法令に基づく規制ではありませんので、規制区域内に足を踏み入れても罰則等の適用はありませんが、登山(入山)することにより生じる火山災害のリスクを低減するために必要な措置となっておりますので、ご理解願います。(中略)近年では平成8年から平成12年にかけて計8回の小噴火が発生しましたが、いずれの噴火も予兆を捉えることはできませんでした。(中略)火山災害の危険性をご理解いただいた上で、登山(入山)をするか否かは、ご自身で判断してください。」

 ははぁ、要は登山するなら自己責任ですよ、ということだな、と思った。なにしろ、最近の日本では、ひとたび何かの事故が起これば責任の所在ということがうるさく言われ、その場合、最も責められる可能性の高いのが行政なので、注意をするだけして、何かの時に責任を取らされることのないよう予防線を張っているのだ。
 最後の小噴火が今から17年前である。その間、この規制は出っぱなしなわけだ。いつ解除されるのか?「中略」部分に書かれたことも合わせて考えると、駒ケ岳が活火山ではなくなった時だ、ということが分かる。それまで少なくとも数十年、おそらくこの規制は続く。こうなると、規制は一種の「オオカミ少年」である。時に出されるから危険も感じるのであって、これだけ長く出され続ければ、規制による危機感なんて持ちようがない。もちろん、17年、数十年なんて、地球の歴史から見れば一瞬であって、規制が100年間続いたとしても、決して不合理とは言えないのだけれど・・・。
 私は、このご注意をありがたくお聞きした上で、「ご自身の判断」によって入山することにした。私が規制区域内に滞在するのは、どんなに長く見積もっても4時間くらいのものであろう。数十年の規制期間の中の4時間である。それで被災したら、私は「運」がなかったとしてあきらめる。ただそれだけである。

 渡島砂原駅7:20・・・8:04砂原登山口(望洋の森)8:10・・・8:51分岐・・・10:20砂原岳10:30・・・11:25駒ヶ岳11:30・・・12:10馬の背12:20・・・12:35分岐・・・13:05銚子口登山口・・・14:25銚子口駅(途中、休憩時間の合計は45分くらい)

 残念ながら快晴ではなかったけれども、まずまずの天気に恵まれ、気持ちのいい山登りになった。砂原岳からは雲の切れ目から太平洋、その向こうに雲上の日高山脈も遠望できた。特に北斜面では、美しい苔とイワギキョウをたくさん見ることができた。
 家族連れも含めて、20人くらいの登山者と会ったが、私以外の全ては車で赤井川登山口まで入り、そこから登ってきていた。「入山自粛の話知ってます?」と尋ねてみると、全ての人が「自己責任自己責任。何かあった時批判されると困るから、今の行政はすぐ規制するのさ・・・」と、私が考えていたのと同じことを言う。わざわざ新噴火口をのぞきにまでは行かなかったが、火山が生きていることを実感できるものは何もなかった。


【コースメモ】
・砂原登山口には、落石による入山規制の看板もある。どこがどう規制されているのかよく分からず、登ってみても、危険な場所の心当たりがない。
・西円山までの登山道は非常によく整備されている。砂原岳への分岐は、小さな看板が地面に置いてあるので分かるが、そこから数百メートルは腰くらいまでの草かぶりで、登山道も明瞭でない。それが終わるとザレ場。ずるずると滑って非常に歩きにくい。
・ザレ場が終わると、こんなところ登れるわけがないと思うような巨大な岩塊にぶつかる。ロープの付いた岩場を数メートル登ると、左側になだらかなで見晴らしのよい斜面が続き、登山道はそちらに延びている。岩塊は虚仮威しである。
カルデラの中はどこでも歩ける。砂原岳からカルデラに下るところも危険はない。
駒ヶ岳には一番北側から回り込むように登る。1050m付近に、「剣が峰山頂1131m」という偽りの看板がある。そこから更に岩峰の裏側に危なくもない登山道が付いている。駒ヶ岳は岩峰がいくつも集まったギザギザの山であるが、その登山道をたどると3番目くらいに高いピークまでは容易に到達できる。それ以上の場所は、クライミングの準備がなければ無理(仮に登れても下りられない。危険)。
・ 馬の背から南東に延びる尾根の先端にある892mのピークは、隅田盛といい、登山道が付いている。
・銚子口への登山道は、入り口を塞ぐ形で「これは登山道ではありません」という看板が立っている。道標もガムテープで文字を隠してある。今のところ、踏み跡をたどることは難しくないが、倒木がひどくて苦労する場所が下部に何カ所かある。数年のうちに完全に廃道となるだろう。規制区域内にあるわけでもないのに、なぜわざわざ廃道にするのかは不明。