小泉和裕氏を惜しむ

 最近、ある中古の安いCDを見付けて買った。小泉和裕指揮仙台フィルによる、ベートーヴェン交響曲第8番とベルリオーズビオラ独奏付き交響曲「イタリアのハロルド」(独奏:清水直子)である。なんと、私が買った仙台フィルのCD第1号だ。一般に日本人演奏家による日本のCDは高価である。世界の超一流演奏家による名盤が安く手に入る中、わざわざ買おうという気にはなかなかならない。
 仙台フィルのCDは、全てライブ録音。このCDも2007年1月26、27日に行われた第216回定期演奏会のライブである。当時、私は仙台フィルの定期会員券を持っていたので、この演奏会にも行った(26日の方)。小泉和裕という指揮者は優秀な方だし(→参考記事)、清水直子ベルリンフィルの首席ビオラ奏者である。期待満々で聴きに行き、期待を裏切られずに感動して帰って来たことは記憶に新しい。が、私の視聴者としての音楽体験ベスト幾つ、というには至らなかった。変な言い方だが、「普通の名演」であった。
 ところが、今回購入したCDは、一聴して、素晴らしい!ここまで素晴らしい演奏だったかな?と思った。録音も秀逸。フルオーケストラが演奏するには狭くて反響豊かすぎる仙台市青年文化センターで、これほどクリアーな録音ができるものなのだな、と驚く。私の記憶の中の演奏会よりも、このCDの演奏の方が素晴らしく思えるのは、豊かすぎる残響が録音技術によってそぎ落とされ、すっきりとしているということもあるかも知れない。
 野暮になるので、演奏の細部についての素人批評はしない。
 ところで、いま手元にないのだが、8月だったか、河北新報で、来年度から仙台フィルの指揮者陣が変わるということを知った。フランス人パスカル・ヴェロに代わって飯守泰治郎氏が常任指揮者となり、首席客演指揮者だった小泉和裕氏が引退して、高関健氏がレジデント・コンダクター(←なんだかよく分からない地位)、角田鋼亮氏が指揮者となる、というものだ。今、仙台フィルのホームページを開いてみると、「新たな指揮者体制のもと、2018年度シーズンからベートーヴェンを基軸に構成したプログラムによって、更なる深化を目指します。」と紹介されている。
 ドイツ音楽、高関健ファンの私(→こちら)としては、それなりに歓迎すべき体制変更であり、来年度定期のプログラムなのだけれど、ベートーヴェンを中心としたドイツ音楽に軸足を戻すなら、なおのこと、小泉和裕氏の引退は惜しい。「新たなる指揮者体制」はいいが、その中心に立つ飯守泰治郎氏は既に70代後半だし、どうして小泉氏を残し、ブルックナーシューマンブラームスも含めたドイツ音楽の名演を聴かせてくれないかな?今回のCDを聴きながら、そんな思いを新たにした。