冬山顧問研修会は拡大ラボ!

 土日は、遠刈田温泉と近くのスキー場で開かれた高体連登山専門部の冬山顧問研修会というのに参加していた。私が25年近く前に初めて登山部顧問になった時には既にあった研修会で、昨春、栃木県で大きな事故があったからにわかに開かれた、というものではない。しかしながら、開催の形態は今年がらりと変わった。
 いままでは、山小屋やキャンプ場の宿泊で、自分たち作った飯を食べながら語り合い、翌日はワカンやスキーで山に登る、という内容だったのに、今年はそこそこ立派なホテルに泊まり、県外からも含めて多くの外部講師を呼んで授業を受け、実技講習(訓練?)もある、というものであった。加えて、昨年まではまったく任意だったのに、今年は、各校から最低1名以上の参加という「義務」に近い研修となった。県のお役人も見に来たし、マスコミも入った(今日の河北新報に記事が出た。真ん中にいる赤い服が私)。
 私は、顧問になった当初こそ参加していたが、忙しいとか、自分自身が新鮮さを失ったとかで、この15年ほどは参加していなかった。土日に実施する研修を「義務」として強制できるのかな?そういうやり方に対して抗議の意味を込めて不参加にしようかな?とも思ったが、講義の内容が少し面白そうだったのと、テント泊まりでないからいいや、という軟弱な思いと、久しぶりに遭難対策の技術チェックをするのもいいかな、と思って参加した。結果、とても面白い充実の2日間になった。
 土曜日の会場は宮城蔵王ロイヤルホテル。午前中は内部講習ということで、3名の顧問が講師となり、12月に東京で行われた「高等学校等安全登山指導者研修会」の内容を伝達するというもの。午後からは、外部講師による講義。那須の事故後に設置された検証委員会のメンバーであり、長野県の高校山岳部顧問でもある大西浩先生による報告、国立研究開発法人防災科学技術研究所雪氷防災研究センター新庄雪氷環境研究所(36文字!)の研究者の方々による雪と雪崩についての科学、勤労者山岳連盟の鈴木孝氏による遭難捜索・救助、ビーコン(雪崩遭難用の救難信号発信器)使用法についての概論と実技。10:00から食事等でのべ3時間の休憩を挟んで、延々21:15まで続いた。
 どれもこれも退屈している暇がなかった、というのが正直な話。大西先生による那須の話は明日以降にまわす。防災科学研究所なる組織を私は知らなかったし、まして、その中の雪氷に関する部門が、山形県新庄市に存在しているなどということは思いもよらなかった。それなら私でも知っているぞ、というような常識的な話もあったが、雪の結晶構造や層構造を解析するために、MRIまで使っているという話、そのために雪をどのように固定して輸送するか、といった話まで、まるで「ラボ・トーク」(→とは?)の拡大版といった感じであった。
 ビーコン使用法にしても、どこかの山岳会の山おじさんによる経験伝授となるのだろう、と思っていたら、やって来た登山家は元SONYの技術者で、根っから機械が好きらしく、これまでに販売された数多いビーコンの構造と特徴が完全に頭の中に入っているという感じの方であった。いちいちビーコンを壊しては構造を調べ、特性の原因を探るなどの作業を個人的に続けてきたらしい。経験だけではない、理論にも基づいた説明にはものすごい説得力があった。「まずは聞いてみるか」が、わずか数分のうちに「拝聴する」に変わったのだから、その力や恐るべし、である。
 昨日、日曜日はえぼしスキー場の標高1100m付近に場を移し、積雪の層構造観察法、弱層テスト、簡易雪洞の作り方、埋没体験、ビーコンによる遭難者捜索法の実地を行った。前日の講義が内容豊かだったこともあって、それを元に、現場で確認していく作業は楽しい。10年ほど前までは、高体連とは関係のないこの手の研修会に出る機会も何度かあったのに、哀しくなるほど忘れてしまっているおかげで、気分も新鮮。冬の蔵王としては例外的な好天に恵まれたことにも助けられ、9時から15時まで、ごく短時間の昼食休憩だけを挟んだだけの研修が苦にならなかった。
 どうせ現在の学校にいる限りは、冬に生徒を山に連れて行くなどという可能性はゼロなので、今回の研修会が仕事との関係で直接役に立つことはないのだけれど、人間というのは、楽しければ、目的とかいきさつなんてどうでもよくなるものである。思えば「拡大ラボ」だったのは、雪氷防災研究センターだけではなく、この2日間全体だった。