オリンピックの記録雑感(1)

 ピョンチャンオリンピックが終わって、早いもので2週間あまりになる。テレビの番組がオリンピックで埋め尽くされている状態から解放されるか、と思っていたら、今度は3月11日へ向けて、震災関連の番組ばかりやっている。日本人ってほんとに暇だな、と思っていたら、実は国会から目をそらさせるためなのではないか?という疑念が兆してきた。怪しい。
 さて、オリンピック閉幕の翌週、どの新聞にもオリンピックの記録「総集編」なる記事が載っていた。全ての種目の入賞者と日本代表選手について、順位と記録(タイム・得点)が書かれたもので、新聞丸々二面にわたる。始めはなんとなく眺めていただけだったのだが、例によって数字の羅列は、じっと見ていると発見があるので、だんだん面白くなってきた。以下、その発見の一部。

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 タイムレースでは、種目の性質によって10分の1秒まで計っているものと、100分の1秒、更には1000分の1秒まで計ってあるものがある。
 圧巻はリュージュの男子二人乗りで、3位ドイツ人と4位イタリア人のタイム差は1000分の2秒だ。1000分の2秒の違いで、メダルがもらえるかどうかが分かれる。しかも、1回ではない。4回滑って合計タイムが1000分の2秒しか違わないのだ。1回あたりだと10000分の5秒の差に過ぎない。
 そり競技は、概して時間差が小さい。ボブスレー男子4人乗りなんて、時間は100分の1秒単位の計測だが、1位から7位までがほぼ1秒(厳密には1.05秒)の範囲で争っている。この競技もリュージュと同じく4回の合計タイムで勝負が決まるので、1回あたりの時間差は、単純に考えてその4分の1。つまり、滑走1回あたり0.26秒の範囲に7チームということだ。スケルトン女子は、1位から5位までが0.7秒の範囲にいる。もちろん、これも4回滑ってのタイム差である。恐るべし。
 ただ、ここで思うのは、現在の精密きわまりない計測技術があるから、このような100分の1秒や1000分の1秒差の勝負が成立するのであって、手動計測なら、運に左右されずに公平に計れるのは、どんなに訓練を積んだとしても、せいぜい10分の2秒か3秒単位が関の山だろう。つまり目で見ていても勝負は分からない。とすれば、それらのチームの差がどこで付いたのかも分からない。このように人間の実感とかけ離れたところで競技が成り立つというのは見ていて面白くない。
 しかしながら、差があまりにも小さく、人間の視覚ではその差が捉えられないとは言っても、だったら、その差は運なのか?というと、どうやら違うらしい。例えば、最初に取り上げたリュージュ男子のメダリストは、国籍で見ると、オーストリアアメリカ、ドイツ。ボブスレー男子4人乗りはドイツB、ドイツC、韓国。スケルトン女子はイギリス、ドイツ、イギリス。どうやら、強豪と言われる国(チーム)がだいたい順当に勝ったようだ。一方、それらの種目の中で唯一、日本人選手が出場したスケルトン女子で、日本人は1位から6秒半以上という、ほとんど「天文学的」な大差を付けられている。技術の違いがあれば、差ははっきりと付くのである。
 だとすれば、1000分の1秒だろうが、10000分の5秒だろうが、その差についても、それを生む技術の違いというものがあるのであり、その技術を支える身体感覚というものがある、ということになる。私はそんな人間の身体、能力を偉大だと思う。
 計測に関連することをもう少し指摘しておく。スピードスケートは100分の1秒単位の発表だが、実際には1000分の1秒単位で計っているらしく、100分の1秒単位で同タイムになると、1000分の1秒単位の計時が発表されて、順位が確定する。
 今回の例だと、男子500mの6位と7位は、34秒83で同タイムだったため、1000分の1秒計時となり、34秒831と839の1000分の8秒差で日本の加藤が6位になった。1000mも、1分8秒56の2人を1000分の1秒単位で比べて、564と568、すなわち1000分の4秒差で4位と5位の順位が付いた。5000mも6分11秒61の2名が1000分の1計時で616と618、1000分の2秒差で順位が付いた。これは2位と3位だったので、1000分の2秒のためにメダルの色が変わったわけだ。500mを1000分の1秒単位で争うよりも、5000mを1000分の1秒で争うのはすごいことだ。距離の桁が一つ違うのだから、時間の桁も違うはずなので、5000mの1000分の1秒は、500mだと10000分の1秒に相当するのではないか?オリンピックという舞台の厳しさを見せつけられる思いがする。
 不思議なのは、スピードスケートが順位の決着を付けるために、計時のオーダーを上げるのに対して、バイアスロン男子15キロでは、35分47秒3でゴールしたトップの2人が、そのままのタイムで、1位、2位と順位を付けられて載っていることだ。何で順位が決まったかというと、欄外に「写真判定による」と書いてある。写真判定で順位が付けられるということは、差があるということなのに、バイアスロンではなぜ100分の1、1000分の1単位で計測が為されていないのか?技術的には同じことだと思うのだが・・・。(続く)