今年も南極から!

 4月の13日だっただろうか。1枚の葉書が届いた。第58次南極越冬隊に参加していたDr,大江からである。この方から昨年もらった「昭和基地」消印の年賀状については、その時書いた(→こちら)。
 今年の消印は「しらせ船内」、言わずと知れた砕氷艦である。日付は2月25日だ。あわてて国立極地研究所のホームページから「進め!しらせ」というページを開いて、しらせの位置を確認する。2月25日には南緯66度46分、東経66度31分の位置にあって帰航中だ。
 とても凝った葉書である。情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所宇宙環境研究室が作った絵はがきで、表には昭和基地の背後にオーロラが乱舞している写真が印刷され、左上の隅に「南極ゆうびん」という文字が入っている。裏の右下に「管理棟とオーロラ JARE58大江洋文」(JAREはJapan Antarctic Reserch Expeditionの略称)と表面の写真について説明されているから、大江さんが撮影した写真がNICTの絵はがきデザインとして採用されたもののようだ。しかし、この絵はがきが「凝っている」のは、そんなことによるのではない。裏の宛名書きの下に丸いスタンプが二つ押してあって、左は「SHIRASE59th」とあって、トウゾクカモメらしき鳥を中心としたデザイン、インクは黒、右は「SHIRASE58th」とあって、作業服を着たペンギンらしきデザイン、インクは赤。この場合の「58th」「59th」とは、それぞれ第58次隊、第59次隊を昭和基地に運ぶしらせ、という意味だが、それは同時に第57次越冬隊、第58次越冬隊を迎える、ということを意味する。だから、58次の越冬隊メンバーである大江さんは、往路と復路で1個ずつ次数の違うスタンプを押すことができたというわけだ。
 もっとも、絵はがきが58次隊の大江さんによって撮られた写真を使っているということは、往路にはまだ存在していなかった葉書なわけで、日本から大事に持って行った絵はがきに、往路で一つ、復路で一つスタンプを押したというわけではない。とは言え、帰国前に葉書に消印を押したことは間違いないわけだから、もしかすると、写真が印刷されていないNICTの白い葉書を持って58次隊のしらせに乗り、往路でスタンプをひとつ押して昭和基地に入り、越冬中に写真を印刷し、復路でもうひとつのスタンプを押した、ということかも知れない。いやいや、大江さんは第54次越冬隊にも参加しているから、絵はがきの写真はその時撮ったものだが、撮影者の紹介の仕方としては第58次ということにしたのかも知れない。それなら出国前に印刷できる。葉書1枚で、いろいろと想像が膨らむ。
 昨年の年賀状にはプリントされた文字しかなかったが、今年は自筆で文字が添えられている。「このハガキと一緒に帰国します」と書かれている。あれれ・・・???
 通常、船の運航に当たっている自衛官以外の観測隊メンバーは、飛行機でオーストラリアのパースに飛び、その外港であるフリマントルからしらせに乗る。そして復路は、しらせをシドニーで下りて飛行機で帰国する。だから、しらせが東京に戻るよりもはるかに早く、観測隊員は帰宅することになる。今年、しらせがシドニーに入港したのは3月20日だ。普通に考えれば、大江さんの帰国は3月25日頃である。しらせが東京に帰り着いたのは4月11日だ。「このハガキと一緒に帰国します」ということは、大江さん、シドニーで下船せずに、東京まで船で帰って来た、ということなのかな?時間があって、なおかつそのような選択が許されるのならば、私だったら絶対そうするな。羨ましい。
 というわけで、1枚のハガキにずいぶんと楽しませてもらったわけだが、実はこの私、今年、第60次南極観測夏隊の教員派遣枠というのに応募していたのである。「え?それ何?」という人も少なくないだろうし、手続きも簡単なものではないので、その顛末について書いておくことにしよう。また明日。