自動車に表れた“文明”の葛藤・・・ラボ第12回

 今日は第12回目の「ラボ・トーク・セッション」であった。前回、「カンケイマルラボでの開会は今回が最後。次回は(バージョンアップを目指して?)場所を変えてリニューアル。お楽しみに。」 と書いたとおり、今回は大モデルチェンジとなった。
 まず、主催者が坂田隆先生と私の2人になった。場所がカンケイマルラボからIRORIに移った。お料理が外注となった。終了時刻を21時に決めた。チラシのデザインも変えた。
 チラシを新しくするにあたり、ラボとは何かを明文化した。次の通りである。

「“ラボ”は専門家のお話をきっかけに参会者がそれぞれの問題意識に応じて自由に交流を深める場所です。異分野交流もよし、ゲストの専門家に無邪気な質問を浴びせるもよし、お酒を片手に知的な世界をひろげてみませんか?」

 で、第12回=新ラボの第1回ゲストは、石巻専修大学教授・山本憲一氏。自動車工学の専門家である。大学の教壇に立つようになってからはまだ10年あまりであるが、その前29年間は、トヨタ自動車の研究所にいて、トランスミッションの改良やプリウスのエンジンの静音化などに取り組んでいた自動車開発のプロ中のプロである。
 演題は、「“文明”の葛藤 〜自動車は今後どのように進化するのか?〜」。申し訳ないことに、もしくはもったいないことに、私のミスで常連の高校教員が集まりにくい日に設定してしまったことなどあって、ラボ史上最少16人の参加者に止まったけれども、お話はラボ史上1、2を争う質の高いものであった。なにしろ持ち時間の1時間きっちりに、自動車の歴史から技術の現状、将来的可能性、方向性、加えて津波を始めとする水害に強い車という石巻独自の視点まで、多岐に渡るお話が、高密度で、しかも素人に分かるようにまとめられていた。私のように斜に構えている人間にとっても、技術の問題としては非常に面白かったのである。最近の車はコンピューター制御だ、といわれることの意味とすごさも少し分かった。
 とはいえ、日頃から、自動車と飛行機を手放せなければ人類は間違いなく生存の危機に立つだろう、と言ってはばからない私は、今日のお話を聞いて、「自動車にも将来があるなぁ」とは思わなかった。ガソリンから電気や水素へのシフトについても、何か画期的な打開策があるのかと思っていたら、やはり結局のところ石油を使わずにそれらを確保する策があるわけではないらしい。エントロピーは増え続けるのである。
 安全性の向上を目指す数々の工夫や、自動運転技術の現状についても、私にとって「あっ!」と驚く新鮮な知識がてんこ盛り。だがやはり、車が進化すれば人間が堕落し、堕落した人間はますます新しい技術に頼ってその堕落をごまかそうとする、という構図から逃れられない。自動運転車だって、100%安全で、万が一事故が起こった時にも使用者の責任は絶対に問われない、ということが保証されるならともかく、そうでないとしたら、自動車が凶器であるということを肝に銘じ、それを使用する責任の重大さを噛みしめながら、慎重に運転する、もしくは使わないというのがいいと思う。
 ただ、こんなことも思う。例えば実験物理学や宇宙科学には極めて高度な最新技術が数多く使われている。それが実験物理学、宇宙科学のための技術である限りは、使用範囲は極めて狭い範囲に限定される。しかし、そこで開発された技術は他の分野に転用されて、私たちの生活の向上に貢献する。他分野で開発された技術が、それらの分野に転用される可能性もある。自動車の技術も同じだろう。それは、私がいつも口汚く罵る「目先の向上(利益)」だけではなく、「本物の生活の向上」である可能性がある。「文明は人間を堕落させる」「楽と便利を私は信じない」といつもぶつぶつ言っている平居に、新技術によってもたらされる「本物の生活の向上」なんてあり得るのか?と言われてしまうかも知れない。だが、それはやっぱりあるのではないかな?いくら私でも、そこまでねじけていない。
 リニューアル第1回として、いろいろ勝手の分からないところもあり、これでよくなったのかどうかは分からないけれど、今後も2ヶ月に1回のペースで継続予定。よろしく。(案内が欲しい方はコメント欄を使って連絡下さい。ただし、アドレス明記のこと。)