久々に高校入試懇談会

 一昨日は朝から仙台へ行き、学習塾協会というところが主催する「高校入試懇談会」というのに出席した。県内の学習塾の先生方に高校のアピールをするという会だ。水産高校の時にも、確か2度出席して、プレゼンテーションをしたことがある。
 私は現在、学校宣伝を担当しているわけでもなんでもないのだが、諸般の事情(後述)で校長と一緒に参加することにした。申し込みが少し遅れたということもあるのだが、私の出番は、3日間にわたって行われる大イベントの2日目、午前の部の7番目=最後である。これはいい。おそらく、他の学校はパワーポイントによる資料を提示しながら、カリキュラムや進学に向けての学校の取り組みなどを似たり寄ったり同じパターンで話すに違いない、塾の先生方は半分うんざりしながら聞いているだろう、だとすれば、パワポは使わず(←私がIT嫌いなのは有名だが、使えないのではない、使わないのである。念のため。=参考記事)、学校パンフレットや事前に提出し、印刷して配布されている学校紹介資料に書いてあることは「ご覧下さい」で片付け、まったく違う視点で簡潔なお話をしよう、と作戦を立てた。持ち時間は10分。私の発言は以下のようなものであった。(一部不穏当な表現あり。乞ご容赦。)


「昨年春まで水産高校に勤務し、塾の先生方には本当にお世話になりました。改めて御礼申し上げます。異動により、なかなか塾の先生方ともお会いできなくなると思い、昨年Can(=学習塾協会主催の中学生向け学校説明会)の会場にご挨拶に伺ったのですが、それからわずか半年、なぜかこの場に来て、再び先生方とお会いすることになりました。事情は後でお話しします。
 さて、私は水産高校に7年間おりました。定年までの残り年数を考え、定年まで水産高校にいるわけにはいかないということも考えて、異動することにしました。しかし、異動はなかなか勇気がいります。異動先が居心地のいい学校であるとは限らないからです。どこの学校でも多忙化がひどい上、どうも余計な仕事を増やして多忙化しているように見えます。
 結果として塩釜高校に拾ってもらいました。塩釜に決まった時、私の心の中にあった塩釜高校のイメージとは、中途半端な学校が旧制中学校あがりのプライドで成り上がろうと悪あがきをしている、あるいは、特に昔の男子校はあまり柄がよくない、というものでした。マイナスのイメージばかりがあったわけです。
 ところが、赴任してみると、これがなかなかのパラダイスです。豊葦原の瑞穂の国のよき日本人の学校、と表現するのが正しいでしょう。素直で明るく穏やか、そして行儀のいい生徒が、楽しそうに平和な日々を過ごしている、そんな感じがするわけです。生徒の行儀の良さというのは、特別に強い指導をしなくても、女の子のスカートが短くなっていかないという点にとてもよく表れています。授業に行った時、黒板がきれいに消してある、勉強道具が机の上に準備してある率の高さは、私が今までに勤務した学校の中で圧倒的です。国立大学に一般入試で合格する生徒はいないわけですから、決して学力があるわけではないのですが、生徒はこつこつと真面目に勉強します。その健気さは、見ていて本当に可愛いものです。問題行動はほとんど発生せず、生徒は部活動などの活動を自分たちだけで運営できます。私は偏差値が非常に高い学校から非常に低い学校まで数校を渡り歩きましたが、今にして思えば、偏差値の非常に高い学校も、非常に低い学校も、どちらも変態が多かったなと思います。中間層の日本人はいいものです。
 そんな塩釜高校が、今後どのような方向を目指しているのか、手っ取り早いので、校長が今年度最初の職員会議で、「本校が目指す方向」として示したものを読みます(太字イタリックは朗読時に強調した箇所)。

① 学習活動、生徒会活動・学校行事などの特別活動、及び部活動の全てに主体的に参加する生徒を育成すべきです。従って、これら3つの活動のどれか一つが、他の活動を妨げることがあってはなりません。
② 教員にとって、教材研究をしたり、自らの専門性を高める為の時間は絶対に必要です。可能な限り業務を減らし、教員が本来の教育活動に専念できる学校を目指します
③ 目指す生徒像は、精神的にも肉体的にも健康で、他者を思いやる気持ちを持ち、自己を高める努力を続ける生徒です。入学してから卒業するまでの間に、生徒一人一人が、自らの成長を実感できることが理想です。そのためには、失敗や挫折も、時として必要かも知れません。成果や見栄えに拘泥すべきではありません
④ おおらかに青春を謳歌できる学校でありたいと思います

 こんなことを言いきれる校長なかなかいないと思いますよ。
 〈これらの方針を具体的によく表しているのが、7時間授業とビジネス科の問題です。
 現在、塩釜高校では土曜授業はありませんが、週に2日、7時間授業の日があります。1コマ50分でです。しかし、これは現在の1年生から廃止されました。1年生は5日間6時間授業で、これは学年進行で実施されるので、2年後には7校時が完全になくなります。
 ビジネス科は、以前から資格の取得に大きなエネルギーを費やしてきました。それによって成果を上げてきたのも確かですが、補習が多過ぎて、部活動にも参加しにくいという状況がありました。果たしてそれがいいことなのかどうか、校長が問題提起をし、ビジネス科のあり方について検討が始まっているところです。〉
 私が今日、この会に来たのは、今お話ししたような塩釜高校の現状に対するある種の感銘と、学校の目指す方向性への共感によっています。私はここに来ている他の高校の先生のように、教務主任でも主幹教諭でもありません。ただ、その感銘と共感の故に、いわば個人プレーで校長に参加を訴え、一緒にやって来たわけです。
 20年か25年くらい前から、宮城県では「特色ある学校づくり」ということが言われ、学校が競争に駆り立てられるようになりました。その結果、各高校は何かに追われるように取り組みを増やしてきましたが、正直言って、私が見たところ、それらのほとんど全てがパフォーマンスです。教員が頑張れば頑張るほど、学校は多忙で余裕のない場所になり、しかも生徒の自立を妨げます。表面的で実のないパフォーマンス教育が、20年後、30年後に成果を生むでしょうか?
 塩釜高校で生徒は、のびのびと学校生活を送り、その中で将来花開くための様々な材料を蓄えていくはずです。いわば、究極の平凡です。しかし、今の世の中はそれがなかなか難しい。しかし、やっぱりそれは価値なのだと思います。
 塾の先生方には、ぜひそのような塩釜高校の現状と方向性をご理解いただき、生徒に伝え、私たちへの支持をお願いしたいわけです。よろしくお願いします。」


 上のプレゼンで、〈 〉の部分は、私が話す予定でいながらうっかり忘れてしまった部分である。冒頭に書いたとおり、私はパワポも使わず、原稿やメモも見ない。参加者の表情を見ながら、資料もなしで訴えるのが基本だ。そこで、どうしてもこのような「うっかり」が発生する。それは仕方がないことなのだが、ここはけっこう重要だったなと、帰る道すがらのみならず、今に至るまでさんざん後悔することになった。
 期待通り、塾の先生方は大きく頷きながらとてもよく聞いてくれた。終了後にも、塩釜高校を指名して応援まがいの質問をしてくれる先生もいたし、名刺交換に来てくれた先生も他校より絶対に多かったと思う。それにしても、どうして他の学校は、いつも同じパターンで、学校パンフレットやホームページを見れば分かる事務的なことばかり話すのだろう?世の中の人の「当たり前」は、私にとって常に「不思議」である。


(補)水産高校の中学生勧誘係としてこの会に初めて出た時の記事がこちらにある。今回と状況が非常に似ていることに驚く。私も変わらないが、他校も変わっていない。