ケニア、えらい!!

 月曜日の毎日新聞第1面に「プラスチック危機 『世界で最も厳しい』禁止法 ポリ袋『ノー』ケニアの挑戦」という記事が出た。さほど大きくないが、第3面に続いており、それらを合わせると半面を超える大きな記事になる。あまり月曜日らしくない。日曜日の特集のようだ。
 それはともかく、記事によれば、ケニアは昨年8月、使い捨てのポリ袋を全面的に禁止した。業者による製造・輸入・販売だけでなく、消費者による使用までが禁止の対象となる。違反すれば逮捕で、最高4年の禁固刑か400万シリング(=約440万円)以下の罰金が課せられるという。実際に、検挙されたのは1150人、中には200万シリングの保釈金を払った例もあるという。
 目的は石油消費=二酸化炭素排出の抑制ではなく、ゴミの散乱による生活環境汚染の改善と、動物の誤飲防止らしい。もちろん、そんな規制法が簡単に作れたわけではない。15年くらい前から話は出つつ、業界団体の強い抵抗によって何度も挫折してきた。2015年から市民運動の盛り上がりがあり、海外からもそれに対する賛同の声が多数寄せられるようになって、ようやく制定にこぎつけたのだという。代わりに微生物が分解できる素材のカラフルな袋が使われるようになったが、何しろ値段が普通のポリ袋の6倍もするので、エコバッグの使用が増えてきたらしい。
 さすがはワンガリ・マータイさんの国だなぁ、と感心した。
 市民はよく法律を守っているらしいが、その動機は「逮捕が怖いから」だという。そのような施策を強引に進められる政府というのはすごいなと思うが、もちろんこれは諸刃の剣だ。この権力は悪いことにも使い得る。ただ、それでも、ケニア普通選挙による大統領+議会制民主主義を取っているはずである。支持と説得力のあることでなければ通用しないだろう。
 次の禁止対象はペットボトルだ、ということは、既に言われているらしい。これもまた、やって当たり前のことなのだけれど、どの国も出来ていないのだから、やっぱり偉いなぁ、ケニア。そう、やればできるのだ。ただし、今回のポリ袋でも、製造業者数千人が失業、関連業界を含めると10万人の雇用に影響が出た、という。自然にかつ速やかにそれらの人々がどこかに吸収されていくならよいが、本当に食えない人が出たら大変だ。
 何しろ私は、自家用車と飛行機即刻廃止論者である。そんなことをした日には、失業者は数百万人を下るまい。それでも仕方がない。やらなければならないことは、やらなければならないのだ。しかし、その不利益はその業界の人たちが被るのではなく、国民全体が公平に被るようなシステムが必要だ。そうでなければ、産業を犠牲にした環境対策はやってはならない。
 ヨーロッパ(EU)でも、5月の末に使い捨てのでプラスチック製品を禁止する法案が提出され、審議に入った。今日の毎日新聞では、放置されたプラスチックが太陽光で劣化すると、メタンやエチレンなどの温室効果ガスを放出することが、アメリカの研究チームによって確認され発表されたことが報じられた。
 日本には環境を守ろうという緊張感が全然ない。
 ケニアでは、製造業者によるポリ袋禁止法の撤回や損害賠償を求める訴訟が起きたが、全て敗訴しているそうだ。負けた側の代表が、「公共の利益を持ち出されると分が悪い」と語ったらしい。ふと考えてしまう。「公共の利益」って何だろう?10万人の雇用が脅かされることで国全体の経済に悪影響が及ぶことか?美しい生活環境か?もちろん、ケニアの裁判所は後者を「公共の利益」と認め、関係者もそれを受け入れているということだ。日本なら?もちろんダメージの大きさにもよるけれど、経済的なダメージを「公共の利益」とするのではないだろうか?地球に他の生物とともに住まわせてもらっている人間の価値が問われる。