入院の記録(2)

 今日から出勤。
 話は昨日の続き・・・。
 20日の10時に入院した。1日目はほとんどすることがない。器具を入れる穴として利用するらしいおへその掃除と、手術室看護師による問診があったくらい。午後の手術なら、朝入院でも十分だな、と思った。すると2泊3日になる。
 2日目は手術である。大昔、中学校の時に鼻の奥、脳の下辺りにできた良性腫瘍を摘出するため、全身麻酔を3回もかけたことがある。そのうち2回は心臓手術でよく使うらしい冷却麻酔というやつだった。40年以上も前の話だが、プロセスや感覚は結構よく覚えている。麻酔というものが、この40年間でどう変化したか、それを実感できれば面白いという好奇心はあった。
 7時に点滴(ただの塩水)が始まる。かつてのように、予備的な注射を打たれたりはしなかった。9時半に術衣に着替え、エコノミー症候群防止用の靴下を履かされ、10時に歩いて手術室に行く。目が覚めてから手術室に行くまでの4時間は長かった。なんとなく落ち着かないので、何もできない。怖いとは思わないが、何の症状もない健康体なので、手術をして無理に体にダメージを与えるのが非常に煩わしい。余計なことをするのではなかった、と後悔しては、今更引き返せない、と思うことの繰り返し。
 新築してから2年も経っていないとあって、病院全体がとてもきれい(高級ホテル並み)なのだが、手術室の美しさはまた格別だった。本当に隅から隅までピカピカ。後から思った話、2〜3分でいいから見学させて、とお願いすれば、見学させてもらえたのではなかろうか?失敗した。
 手術台の上に横になるとまもなく、麻酔科の医師が入ってきて、酸素マスクを付け、10回深呼吸するように言われた。それが終わっても何も言われないので、何をすればいいのかな?と思っていたら、次の瞬間には病室のベッドの上にいた。
 麻酔から覚めたというよりは、尿道が痛くて目を覚ました、という感じだ。
 実は今回、全身麻酔で手術を受けるに当たって、過去の経験から、特にいやだなと思っていたことが二つある。一つは、目が覚めた後で、気管に挿入してある管を抜く時、もう一つは、尿道に入れた管を抜く時だ。どちらも苦しかったり痛かったり、いい思い出がない。今回、気管の管を抜くのは分からなかった。意識が戻った時には既になかったのである。その代わりというわけではないが、尿道の管には苦しんだ。尿がうまく排泄されていかない感じで、強烈に痛む。意識はまだはっきりしない時だったが、その痛みのためにけっこう大騒ぎをしたのを憶えている。やがて、尿漏れが始まったらしく、看護師さんの側でも、これは確かに変だぞということになり、医師と連絡を取りながら、翌日まで入れたままにしておく予定だった管を、部屋に戻って間もなく抜いてくれた。これも相当な痛みを伴ったが、抜いてしまえばすっきりおしまい、とならなかったところがつらい。
 管を抜いてしまったのだからと、覚醒とともに、自力でトイレに行くことが許可された。トイレに行きたくなると看護師を呼び、体に付いている心電図測定用の端子その他を一時的に取り外してもらい、点滴だけ付けてトイレに行くのだが、尿意を催してから漏れそうになるまでの時間が極端に短い上、排泄に激しい痛みを伴い、しかもポタポタとしか出ない。退院した今でも、痛みはあって、勢いもさほどよくないが、当初これは本当につらかった。しかし、医師や看護師に訴えても、訴えていない傷の痛みについては心配してくれるのに、尿の問題については、そのうち直るから・・・という反応しかない。本当に直るのかな?尿道が折れ曲がったホースのようになっているのではないのかな?ずっとそんな心配をしていた。
 夜は3回トイレに行った他はよく眠れた。朝になり、回診の時に、点滴以外の全て(心電図、血中酸素飽和濃度、エコノミー症候群予防用のマッサージ機)を外してくれた。昼前には点滴も終わった。これでかなり自由になったと感じた。驚いたことに、医師は、もういつ退院してもいいよ、みたいなことを言っている。
 腹部には傷が3つある。腹腔鏡や手術器具を入れるための穴だ(一つはおへそが兼用)。最大でも12ミリという小さなものだが、腹筋のど真ん中なので、それなりに痛む。それでも、原因のはっきりしている痛みなので、不安というものがなく、さほど苦にならない。体を動かす向きによっては、何かにつかまらなければいけないこともあるが、多少我慢しながらも、普通に動けるようになった。
 後から聞いた話、私が病室に戻ったのは12時半だったそうである。手術に2時間半かかったというわけではなく、妻には、麻酔から覚めるのに多少時間がかかったという説明があったそうだ。術後の説明の際、右についても数年のうちに手術が必要になるかも、と言われたそうだ。
 実は私は当初からそのことを心配していた。そこで、8月10日に通院した際、右の腹膜にも穴が開いているようであれば、この機会に治してしまって欲しい、と頼んだのである。麻酔をかけることの負担は大きい。それが1回で済めばありがたい。ところが、医師は、そういうことはしないのだ、と言った。妻から、術後の医師の説明を聞いた時、だから言ったではないか、と恨みにも似た気持ちがわき起こってきた。2カ所を1回で治してくれる医師を探すべきだった。今回、尿道の痛みでずいぶんつらい思いをしただけに、これだけは本当の後悔である。
 昨日は10時に退院。一人で自転車に乗って帰宅した。自宅に入った瞬間に思ったのは、我が家の安心感よりもむしろ、我が家は汚ねぇな(=病院はきれいだったな)、であった(笑)。(完)