ネバネバの怪

 我が家ではこの2週間あまり、奇妙な現象が起きている。ご飯がすぐに糸を引くのである。夜炊いたご飯が、少なくとも翌日の昼には納豆のようにねっとりと糸を引く。炊いた直後に比べると、多少べちゃっとした感じでもある。
 ご飯が糸を引くといえば、腐ったのだろう、という話になる。試みに、文明の利器・インターネットで検索してみても、ご飯が糸を引くといえば、「腐っている」という答えしか見付けられない。しかし、断じて腐っていないのである。私も、腐ったご飯というのは何度も見たことがあるが、単に糸を引くだけでなく、見た目(色)もにおいも異常である。また、糸を引くとはいっても、納豆のようなねっとりとした感じではなかったと記憶する。現在の我が家のご飯は、糸を引くという以外に変わった点はなく、食べても誰もお腹を壊さない。そもそも、さほど気温が高いわけでもないのに、炊いてから半日あまりでご飯が腐るというのはあり得ない。我が家の空気には、天然酵母よろしく納豆菌が充満していて、それが炊いたばかりのご飯に付着し、発酵させるのではないか?
 あれこれと原因を考え、解決策を模索した。途中、電気炊飯器の釜が悪いのではないか?と考えた。テフロンがあちこち剥げている。そこに何か秘密があるのではないか?
 というわけで、陶器の釜で炊いてみよう、ということになった。我が家には2年前のお正月に観慶丸(石巻の老舗陶器屋)で買った万古焼きのいい土釜があるのである。買った当初は、喜んで使っていたものの、うまく炊けるとご飯が美味しいので食べ過ぎてしまう、うまく炊けないことがしばしばある、といった事情でお蔵入りしてしまっていた。
 今回、釜に付いていた「美味しいご飯の炊き方」なるマニュアルを改めて読み直し、毎日1回、釜でご飯を炊く。結局、陶器の釜でご飯を炊いても、半日あまり後に糸を引くという現象は解決しないのであるが、5〜6回繰り返したところで、いろいろと気付くことがあった。
 水の量を慎重に計り、勢いよく蒸気が出始めてからは、蒸気のにおいに神経を集中させる。ほんの少し焦げたにおいがしてきたら火を止め、15分間蒸らす。ま、飯盒でご飯を炊く時の要領と同じである。ふたを開けてご飯をかき混ぜるが、この時はまだベトベトしている。ここから更に1時間くらい経ってからが、最も美味しい食べ頃だ。我が家で買っている安い米でも、もっちりとしていて、簡素なおかずでご飯が進む。
 なるほど、確かに電気炊飯器は簡便だ。だれでも簡単にほどほどなご飯が炊ける。だが、それは可もなく不可もなくのご飯だ。一方、土釜の方はコツが要求される。ご飯もデリケートで、賞味時間は限られている。だが、うまく炊けて、ほどよい時間のうちに食べれば、電気炊飯器のご飯より圧倒的に美味しい。これはおそらく、古いやり方と新しいやり方、昔ながらの技術と文明の利器の違いを象徴しているだろう。
 わずかに数回でも、私のご飯炊き技術は明らかに進歩した。あと1ヶ月も続ければ、おそらくかなり容易に、安定的に、質の高いご飯が炊けるようになるに違いない。
 とは言え、ネバネバが解決しないのは不愉快だ。仕方がないので、生卵をかけて、その気味悪い食感をごまかしながら食べているのだが、出来れば根本的解決を図りたい。どなたか知恵のある方がいたら教えてください。