2人のプロフェッショナル

 毎週月曜日の夜にNHKで放映している「プロフェッショナル」という番組は、よく見る。その際、必ず録画している。いいものがあったら、教材として使いたい、という思いからだ。
 登場してくるのは、それぞれの分野で超一流と認められた人たちである。ところが、学校で使いたい、使えるという作品はめったにない。ほとんどは、すぐに「消去」の運命をたどる。帯に短したすきに長し。いいところもあるが、気にくわないところもあって、なかなか生徒に見せる気にはならないということだ。これまでの作品で最もよかったのは、カツオ一本釣り船の漁労長・明神学武(みょうじんまなぶ)を追った回(→詳細)、次は辞書編集者・飯間浩明かな?そしてその次は・・・???。
 さて、今週に入ってから、先週と今週の番組を立て続けに見た。そして、それら2作を対比することで、私が評価する作品としない作品の違いがはっきりしたので、少し書いておこうと思う。
 先週は、広島市信用組合の理事長・山本明弘氏、今週はブランド・プロデューサーのS女史である。後者をなぜ実名で書かないかというと、以下でこき下ろすことになるからである。もちろん、調べればすぐに分かるはずだ。
 ブランド・プロデューサーというのは、ものの売り出し方を提案する仕事、とでも言えばいいのだろうか?業績の上がらない店を改装するとか、新たに会社を立ち上げるとかする場合に、場所、様々なデザイン、社名などなど、あらゆる要素について企画・提案する。番組の中では、あるカフェとエステサロンについての仕事を追っていた。
 確かに、柔軟な発想、豊かな想像力、細やかな気配りなど、一流と思わせるだけの周到さに満ちている。だが、それらは、悪く言えば、客をだましておびき寄せるための表面的な作業に過ぎない。もともとコーヒーやエステは贅沢産業だが、彼女がやっていることは、コーヒーやエステの質を高めるものでさえないのだ。たとえ彼女の提案が世の中から受け入れられ、彼女に仕事を頼んだ会社が収益を伸ばしたとしても、果たしてそれが世の中をよくしたことになるだろうか?そう思う時、私はブランド・プロデューサーという仕事そのものの価値を疑ってしまうのだ。
 一方、信用組合の方は非常によかった。明神学武、飯間浩明に次ぐ、あるいは並ぶ名作として、学校で使えそうだ。こちらは、金融機関の社会的な役割を学ぶことにもなるし、ただ単に信用組合の収益を伸ばすことが主題になっていたりもしない。
 山本氏は、70歳を超えた今も、多忙な仕事の合間を縫って、毎日5社以上の中小企業を自ら訪ね、仕事場の様子を見て歩くそうだ。若い頃の失敗に基づき、融資した額ではなく、経営者と一緒にお茶を飲んだ回数を数えることにしてから、経営者は会社にとって不都合な事情でも話してくれるようになった。そうして腹を割って話した中でこそ、腰の据わった融資が可能になる。だから、氏の会社訪問は、返済能力があるかどうかを値踏みするという冷たい視点によるのではない。「金を追うな、人を追え」を信念とし、まじめに、愚直に仕事に取り組んでいるかを見つめ、地元で必要とされている会社については、味方となって、一緒に会社の将来を考える。そのための訪問なのである。そんな文脈の中での支援(融資)は、経営状態のよくない零細企業を対象としていながら、焦げ付くことがほとんどなく、氏の信用組合は15期連続の増益を実現させているという。
 会社のため、社会のためと考えることが、結果として、自分の信用組合の利益にもなる。だが、その利益が最初からの目標ではない。しかも、大切にするのは愚直な弱者だ。これはやはり本質的な社会貢献なのではないだろうか?
 私が思うに、一流と認められ、地位や金を持っていたとしても、その全てが「プロフェッショナル」とは言えない。やはり本物の「プロフェッショナル」は、贅沢や遊びの分野ではなく、のっぴきならない「生」や文化のレベルで、社会に貢献する人であってほしい。どうも、私が番組を面白いと思うかどうかは、登場する「プロフェッショナル」のそんな仕事の性質によるようだ。