塩釜の仲卸市場

 かつてバックパッカー(もどき?)をしていた時から、市場という生活臭と活気のある場所が大好きだった。人々の生活や文化の違いもよく分かって、有名な観光地よりもよほど面白い。私と同様のことを言っている人は少なくない。
 今までに行った市場の中で一番面白かったのは、昔、中国・広州の清平路付近にあった市場である。「食は広州にあり」。世界三大料理の一つと言われる中華料理の中で、広州がこのように言われるのは並大抵のことではない。30年ほど前に訪ねて興奮したこの市場も、残念ながら、10年あまり前に行った時にはなくなっていた。都市開発のせいだろうか?その一端は、『中華人民生活百科遊覧』(新潮社・トンボの本)、『アジアの市場』(洋泉社・レインボウブックス)で見ることが出来る。
 まぁ、それでも、面白かったのが広州だけということはなく、外国だけが面白いということもない。日本にも釧路、小樽、函館、青森、金沢、京都、大阪・・・と、楽しい市場はたくさんある。仙台の朝市だって十分楽しい。残念ながら、我が石巻にはそれらしき場所がない。
 さて、この1ヶ月、塩釜の仲卸市場というところに凝っている。前々からその存在は知っていたが、行ったことはなかった。せっかく塩釜勤務になったことだし、授業の合間に脱走して見に行こうという魂胆を持ちつつ、人並みに多忙のためにいつまでも果たせなかったが、先月の半ば9月9日に、息子と車で実家に向かう途中、ふと思い立って立ち寄ったところ、一気に身近な存在となった。16日には娘と行き、そして昨日は家族で行った。「ビョーキ」になりつつある。
 宮城県は水産県なので、大きな漁港や卸売市場がそれなりにある。しかし、仲卸に一般人が自由に入って買い物が出来るのは、私が知る限り塩釜しかない。塩釜の漁港は、東日本大震災で大きな被害を受けたこともあり、5年前から改築工事に着手。ちょうど1年前、昨年の秋に竣工した。
 しかし、仲卸は改築も改修もされることなく、昭和の雰囲気を残す古びた建物である。100あまりの店が入っているが、当然ながら、大半は水産物、特に鮮魚を扱うお店である。他に乾物屋や、容器を扱う店などが多少ある。
 私が行ったのは、休日の6時過ぎ、9時半頃、7時過ぎである。どの時間帯に行っても、さほど活気があるというわけではなかった。休日だったからかもしれない。休日は6時開店だが、平日は3時開店である。いろいろな小売店や料理屋の人たちが出入りする平日の未明に行けば、また全然違った雰囲気なのだろう。全体の4分の1に当たる28店あるというマグロ専門店は、6時過ぎに行くと、大きな包丁を使って当たり前のようにマグロの解体作業中だし、鯨専門店には大きな「うね」が置いてあって驚いた。品揃えはやはり早い時間の方がよく、遅くなると品数が減る代わりに、赤札が付いて、安く魚が手に入るようになる。
 市場の一角に、食堂がある。料理の形で出す店もあるが、ご飯と味噌汁だけを出している店もある。函館の朝市や、釧路の和商市場と同様、市場内で好きな魚を買ってきて、海鮮丼にするなり、焼いておかずにするなり出来ますよ、というわけだ。
 日曜日の出張がなくなって疲れもとれ、心に余裕もできた昨日、家族で初めて朝ご飯に行った。あれこれと買い集めて海鮮丼を作る。ウニとアワビに手を出さなければ、1人1000円で十分なものが食べられる。
 時間と場所の都合、電車で行くのはとてもおっくう。思想に反して車で行かなければならないというのが難点で、しかも、魚(刺身)を買うと全て小さな発泡スチロールに入っていて、そこそこ大量のゴミを出すというのがまた思想に反してストレスになるのだが、それらに目をつぶれば(=そもそも感じないのが普通の人)本当に楽しい。いいなぁ、市場の雰囲気。今後もしばしば足を運ぶことになりそうだ。