不摂生に健康保険

 某財務大臣が、「飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしくてやってられんと言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思った」と述べたことが、多少の話題になっている。マスコミには批判的ニュアンスの感じられる報道が多いような気がする。
 この大臣は以前から口が軽く、それが頭脳構造の単純さ、思想の軽薄さを表しているようで、一国民として哀しかったのだが、今回の発言について言えば、変なことを言っているという気がしない。むしろ共感を覚える。マスコミが権力を監視し、批判することは大切だが、揚げ足取りをするように、権力者の言うことを何から何まで否定的にねじ曲げるのは良いことではない。最終的にマスコミが信頼を失い、権力を本当に批判すべき場面で力を発揮できない、ということになってしまう。「是々非々」、是を是とし非を非とする、すなわち一つ一つのことについて、いいか悪いかは個別に判断するという姿勢は大切である。
 生活習慣病は、正に生活習慣によって引き起こされるものである。先日も医療費(薬価)について書いた時に触れたとおり(→こちら)、健康保険というのは、病気にかかるかどうかは運次第という不公平を緩和させるためのシステムである(と、少なくとも私は理解している)。したがって、本当は、運を原因としない病気に対しては適用する必要がない。健康の維持増進に常識的なレベルで注意を払い、健康を保っている人が、不摂生の結果として病気になった人の医療費を一部なりとも負担させられるのは、逆の不公平である。
 ところが、それを実務的に実行しようとすると、おそらく非常に難しい。医師ではない私が言うのもおこがましいが、病気の原因を完全に突き止めることが難しいからである。脂肪肝はおそらく栄養の取り過ぎでなる病気だろうから、脂肪肝は保険不適用、ということであまり問題にはならないだろう(脂肪肝に治療が必要か、という問題はあるだろうが・・・)。しかし、大腸がんになった時に、それが遺伝的要素によるのか、食生活の問題によるのか、運によるのかは特定できるものなのであろうか?
 また、タバコなら、喫煙を確認するための簡単な検査があるから喫煙者であることはすぐに分かるが、それとて、どれくらいの本数を何年間にわたって吸っているかまでは分からないだろう。まして、健康に留意して生活しているかどうかを、食、運動量、睡眠時間、ストレスなどを客観的に把握し、指標を使って定量化することは、どう考えても不可能だ。
 不摂生をすれば、病院に行った時により多くのお金がかかるという制度は、実現すれば、人々の健康維持への意識を大きく高めることになるだろう。だが、実務的な事情でそんな制度を作ることが出来なかったとしても、病気になって死んでも構わない、と考える人は少ないだろうから、自然な抑止力が働き、不摂生をする人が無制限に増えたりはしないはずだ。変な制度を作って、想定外の望ましくない医療弱者が生まれるよりは、多少の問題に目をつぶっても現行制度を維持した方がよい。
 しかし、である。やはり、不摂生をして病気になった人の医療費を、いくら一部とは言っても、健康に留意しながら節度ある生活をしている人が負担するのは不合理だ。それは確かである。