転売を禁ずるより先に・・・

 この数日、新聞でチケット転売の禁止についての記事をよく目にするように思う。昨年末にチケット不正転売禁止法なるものが成立した上、ラグビーのワールドカップが行われるとか、間もなく東京オリンピックのチケット予約が始まるといった事情もあってのことなのだろう。
 私がまず思うのは、チケットの(不正)転売をどのように見破り、摘発するのかという問題だ。報道によれば、チケットを記名式にし、入場時には免許証やパスポートのような顔写真付きのIDを提示させる、顔認証システムを導入する、デジタルチケットに統一し、購入時に登録したスマホでなければ使えないようにする、などなどの方法が考えられているようだ。
 しかし、スポーツにしても音楽にしても、数千から数万の人が、短い時間の間に入場するのである。確認に手間取っていては対応しきれない。まして、本人確認が取れずに、入場を保留として別室へどうぞ、といった人が発生すると、主催者は大きな負担を背負い込むことになる。しかも、不正転売を防止することは、主催者にとってはメリットがない。私は本人確認が為されているような興業に行ったことはないが、どうやら、本人確認は既に行われているらしい。そこで混乱は起こっていないのだろうか?
 それはともかく、不正転売でいくら暴利をむさぼるダフ屋が現れるとしても、資本主義社会における需給関係のバランスの上に成り立つ取引なのだから、問題とするには当たらない、という考え方もあるだろう。私も半分はそう思っていた。だがその場合、ダフ屋が大量にチケットを買い占めることによって、まじめで善良な一般市民がチケットを入手できなくなる可能性があるのはまずい。文化はできるだけ多くの人が、平等に享受できた方がいい。営利目的の大量購入を根本的に阻止するためには、どうしても本人確認という手段を取らざるを得ない。それは理解する。
 だが、今日私が言いたいのはそんなことではない。チケットの販売と言えば、私はそのキャンセルが出来ないということに納得がいかないのである。飛行機や鉄道の切符は簡単に払い戻しができるわけだから、技術的には何の問題もないはずである。
 もちろん、禁止されているのは利益目的の不正な転売(ダフ行為)であって、何かしらの事情で行けなくなった時に、営利を目的とせずに転売することを禁止するものではない。だが、実際にチケットを買う時には、ほぼ間違いなく、払い戻しはできませんよという念押しが為される。なぜこんな不合理がまかり通っているのだろう?
 最近は、「チケットぴあ」でも再販売の仲介というサービスがあるという話を聞く。ピアに定価での転売を斡旋してもらうというものらしい。だが、その場合は、面倒な手続きと条件がある上、最後まで買い手が見つからないこともあり得る。取引が成立した時の手数料も、鉄道なんかより相当高いようだ。ユーザーとしては、簡単・確実に現金化できた方がいい。
 そんなことをすれば、主催者が困るではないか、と言う人もいるかもしれないが、それなら鉄道でも飛行機でも同じである。だから、例えばJRの特急券など、2日前までなら330円の手数料が、その後は30%へと跳ね上がったりもするのである。それはユーザーの側からも営業者の側からも仕方がないことだ。
 しかも、今問題となっているような人気イベントのチケットについては、キャンセルが出たところで、その後の売りさばきに困難のあろうわけもない。更には、ネットで取引されている飛行機のチケットと同じように、イベントが近づくにつれて値段をつり上げていくことも、主催者に対してなら許してもいいだろう。
 いずれにせよ、払い戻しができないからこそ転売ということも行われるのだし、転売が行われるからこそ転売のあり方が変化し得るのである。そして、現在の技術と環境において、基本的に払い戻しはしません、というのは殿様商売に過ぎる。営利目的の不正な、と言うより、異常な転売を防ぐためにも、まずは興行チケットを、飛行機・鉄道なみにキャンセルしやすくすることが先決だ。