やっぱり「虫がいい」

 日曜日の河北新報社説は「温暖化と東北」というタイトルであった。地方紙とは言え、曖昧漠然とした温暖化一般ではなく、東北という一地域の温暖化を取り上げるのは珍しい。
 それによれば、3月に仙台管区気象台が、東北で今世紀末に起こる可能性の高い気候変動を公表したらしい。私は知らなかった。河北はその時報道したのだろうか?さて、その内容はと言えば、最も簡単な言い方をすれば、2076~2095年の年平均気温で仙台が今の福岡と同じになる、というものだ。更に詳しく見ると、次のようになる。


宮城県の年平均気温が4.6℃上昇。
・仙台で猛暑日は12日、真夏日は43日増加する一方、冬日は71日減少する。
宮城県で1時間に30ミリ以上の激しい雨が降る確率は2.5倍になる。


 温暖化について、私は最近あまり発言しなくなっている。言うまでもなく、状況が改善されたからではない。言っても無駄だし、同じことの繰り返しになるからである。実際、状況は悪化の一途をたどっている。この間の経過を確認しておこう。
 昨年の9月にIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)がまとめた報告書によれば、約20年後に産業革命前と比べて気温が1.5℃上昇し、海面上昇や北極海の氷の融解など環境への悪影響が深刻化する。IPCCは「社会のあらゆる分野で大胆な改革を急ぐよう訴える」。
 ところが、OECD経済協力開発機構)の報告書は、金属や化石燃料など生活や産業に必要な資源の使用量が、2060年に2011年の2倍以上になり、採掘や燃焼による温室効果ガス排出量は1.5倍以上になる、と予告する。2倍以上になるという消費される資源の量とは、1670億トンだが、技術向上など削減へ向けての取り組みが実現しなければ、3500億トンになる可能性すらあるという。(2018年10月23日、毎日新聞
 また、UNEP(国連環境計画)は、パリ協定の目標を達成するためには、各国が掲げる温室効果ガスの削減量を約3倍にする必要がある、という報告書を公表した。(同年11月28日、毎日新聞
 にもかかわらず、IEA(国際エネルギー機関)は、化石燃料の使用による2018年の世界の二酸化炭素排出量は、2017年と比べて1.7%増えたことを発表した。(今年3月27日の毎日新聞
 どう考えても、事態は正に危機的状況である。しかし、それらの記事によれば、各国際機関は、データを発表し予測もするが、では具体的に何をすればよいかということにはあまり踏み込まない。抽象的な言い方が多い。もしくは、踏み込んでいても、バイオマス燃料への転換や、二酸化炭素の回収=地下への封じ込め、といった呑気なことを言っている(IPCC)。新聞の社説もそれをなぞる(例えば、昨年10月11日の朝日新聞)。バイオマス燃料が無尽蔵であるわけもなく、二酸化炭素の地下貯蔵など、技術的に未確立であるばかりか、それをするため更にまたエネルギー消費が必要であることが考慮されていない。

 エントロピーは増大し続けるという法則がある。それに従えば、二酸化炭素を地中に閉じ込めるためには、閉じ込められる量を上回る二酸化炭素(もしくは別種の廃棄物)が放出されるはずだ。今のところ、生物(動植物)以外にエントロピーを減少させるものはない。それを試験管レベルではなく、温暖化を解決さえるほどの規模で実行しようというのは、机上の空論をはるかに超える宇宙の空論である。
 私が頻繁に言ってきたことなのだが、それらは全て「虫がいい」の一言に尽きる。絶対に今の豊かさを犠牲にすることなく、温暖化の克服などあり得ない。人間が痛みに耐えて多くを手放し、自然に対して恭順の意を示さなければ、温暖化は強力な圧力でもって人間を滅ぼすに違いない。そして最もつらい思いをしながら手放さなければならない物の筆頭が、軍隊であり、車(特に自家用車)と飛行機である。マスメディアは、気付いているのかいないのか、絶対にその一線に触れない。そして人間には、無制限に石油を燃やすことについてのためらいも、後ろめたさも、問題意識もない。金で手に入るものは買ってもよく、自分の金で買った物は好きなように使う(消費する)権利がある、と考える。哲学的な無知であり、傲慢である(→参考記事)。
 思想は根底から間違っている。従って、行われることもまたほとんどことごとく間違いだ。温暖化は止まることがなく、むしろ一般的な予測を超えて加速する。間違いなく。