満月の宴

 今日の日中は、若き友人の結婚式に出た。結婚式というものに出るのは10年ぶりくらいである。なにしろ、最近は多くの人を招いての結婚式・披露宴というものを行う人が激減している(と思う)。式も披露宴もしないとか、親族だけでとか、海外でとか、いろいろあるようだ。昔は、教員と言えば頻繁に生徒の結婚式に呼ばれ、ご祝儀を持って行くのもなかなか大変、経費として税金の控除をして欲しい、などという言葉も聞こえたが、今や生徒と教員との人間関係の希薄化、「恩師」意識の低下などもあって結婚式に呼ばれるなど滅多になく、そんな声はどこからも聞こえてこない。
 新郎、新婦ともによく知っているのだが、私はなんと新婦友人としてのお招きであった。夫婦でわざわざ招待状を持ってきてくれた時に、30人くらいの小さな式だと聞いてはいたが、それは友人や職場関係者の数だと思っていた。ところが、行ってみれば家族、親族も含めて32人。そのうち友人や仕事の関係者はたったの16人。そのうち1人は生後6ヶ月だったので、実質15人。厳選に厳選を重ねた感じで、そこに入れていただいたのは実に名誉なことであると感じ入った。
 今日は「大安」ではない。歴注で言えば「赤口」である。「赤口」というのは「凶」もしくは「大凶」の日だと言わてれいる。なぜこんな日に?まぁ、縁起は気にしないというのはひとつの見識なのだけど・・・。
 ところが、実はこだわりは歴注ではなく、月の満ち欠けにあったらしい。新婦による参会者全員の似顔絵が入った手作り感と芸術的センス満点の座席表兼夫婦紹介パンフレットには、表紙に「Full Moon Wedding 令和元年5月19日 満月の宴」と書かれている。あまり意識していなかったが、今日は満月なのだ。
 受付時に渡されたカードには、中学校で美術の先生をしておられたという新婦のお母さんの絵が印刷されている。月の光の下で、1人の少女が夢の中を駆け回っていて、それを2匹の猫が遠目に見ているといった感じの、青をベースにした透明感と幻想性の感じられる絵だ。更にその隣に、お母さんによる詩が書かれている。(本物は/で改行)

「恋をしてから/娘はいつもこんな感じで ルンルンと/出かけて行きました/生まれて育った家は 山の上で/深夜になると 月がきれいに見えました/満月の時 新月の時/生活の中にはいつも/カタチが変わる月があって/星や雲や家から見える景色が/静かにあたかかく光っていました/令和月吉日/この風景のつづく先に娘は嫁ぎます/ハッピーにルンルンと/こんな感じに 花束をもって」

 なるほど、「月」を基調にして結婚式をしよう、ということになるわけだ。ここまで書いてきたことでおよそ分かるとおり、世間の流儀にはこだわらず、自分たちの思いに沿う形で催された、本当のオリジナルな結婚式である。美術一家の総力を挙げて作ったと思しき月の満ち欠けを表現した飾り付けなどもあり、参会者全員が自己紹介を兼ねたスピーチをし、温かく盛り上がったいい披露宴になった。
 日中もいい天気だったが、夜もいい天気。眺望に関してはどこにも負けない我が家からは、夕食時にすばらしい満月が上ってくるのが見えた。月の出所が南に寄っていたこともあり、月が低いところにあるために、黄色の混じりが濃く、とても落ち着いたいい色の月である。祝福としてこれに勝るものはない。