気付けよ、人間!

 台風19号が接近しているという今、自宅にいる。
 どうしてこんなことをわざわざ書くかといえば、本当は別の所にいる予定だったからである。毎年10月の第2週末(金~日)は、登山の新人大会なのである。今春、勤務先の学校では山岳部が廃部になったにもかかわらず、例によってなぜか「派遣依頼」という文書が来て、大会を交流会と心得る私はいそいそと出かけて行く。今年は、山形県最上町前森高原から禿岳(かむろだけ、1262m)に登り、花立峠から小柴山を経由して鬼首(おにこうべ)高原スキー場に下りるという初のコース。私自身、山形県側から禿岳に登ったことはなかったので、旧友や退職した先輩顧問との交流を抜きにしても楽しみな大会であった。
 ところが、1週間ほど前から、相当強い台風が来るらしいということが分かってきた。鬼首で顧問が宿泊予定のホテルのキャンセル料発生のタイミングも念頭に置きながら、高体連登山専門部の重鎮たちが協議した結果、鉄道(解散後、生徒が帰宅するのに影響する)の計画運休の様子も見極めながらではあるが、基本的に1泊2日で実施し、土曜日の午前中には仙台駅に戻れるように計画を大幅変更することになった。昨日、前森高原に着いた時には、曇天とはいっても雲が高く、禿岳が頂上までよく見え、なんだかこのままの天気が持続しそうな気さえしたが、その後は明らかに天気予報の「勝ち」。夕方から雨が降り始めた。
 今日は、閉会式だけやって7時半に一切終了、あとはバスで帰るだけ。私は、たまたま石巻から車で来ていた人がいたので、生徒を引率していないのをいいことに、その車に乗せてもらって10時頃に帰宅した。
 家に着いてみると、風雨はまだたいしたことないものの、海はかなり荒れている。震災後に作られた7.2mの防潮堤の向こうで、豪快な波しぶきが上がるのが見える。午後になると、風が強くなってきた。台風の中心はまだ静岡県の沖なのに、ここで風が強まって来るというのはやはり尋常ではない。時に、風で家のきしむミシッという音が聞こえる。新人大会の計画変更についての判断は、打ち切りの時刻も含めて本当に的確だった。役員諸氏に感服した。
 天気予報によれば、我が家はほぼ間違いなく可航半円(台風の左側)に入る。台風のスピードが上がれば、可航半円の風はますます弱まる。静岡県に上陸した後、500㎞を移動してくる間に、さすがに勢力も衰えてくるだろう。石巻でそう大きな被害が出るとは思えない。それでも、にわかに激しくなってきた風雨の音や、時々の「ミシッ」を聞いていると、なんとも不気味な恐怖を感じる。
 観測史上最強の台風なのだそうな。「最強」はおそらくすぐに(もしかすると今年中にも)更新される。私のみならず、あちらこちらで言われているとおり、これは温暖化と無関係ではあり得ない。ここまで来ていても、人間はまだ自分たちの問題に気が付けない。本当に不思議だ。「人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ない」(カエサル)。2000年以上を経ても変わらない人間の「真実」。一方で激変したテクノロジー。この極端なアンバランスが、事態をよりいっそう悪化させる。
 今のあまりにも贅沢な生活、使い捨て容器の使用にためらいを持たず、山のようにゴミを出し、個人が自家用車を持ち、湯水のように石油を消費する生活を止めない限り、状況は悪化の一途をたどるしかない。先日の国連気候行動サミットで、スウェーデンの少女が言っていたとおり、永続的な経済成長なんて「おとぎ話」である。「命と引き替え」の意識を持って、各自が最大限の努力をすれば、政府が何かをしなくても相当な改善ができるはずなのに、人はそんなことをする気を持たない。自分たちが選んでいるはずの政治家にばかり対応と責任を求めるのは、自分の責任を転嫁する行為である。気付けよ、人間!