どうしても「日本史の汚点」だ

 安倍政権が、憲政史上最長の域に達した。この事については、既に、マスコミでも多くが語られているが、あまり肯定的な評価にはお目にかかっていない。私も、まったく気が滅入るばかりである。
 「現在の利益と将来の利益は矛盾する」というのは、私がしばしば口にする「平居の格言」(と言うほどでもないが・・・)というやつである。目先の利益を負えば負うほど、将来に大きなつけを回すことになるのであって、この点で、安倍政権は犯罪的なレベルだ。しかも、現在の利益と言っても、アベノミクスに代表されるように、本当の現在の利益なのではなく、利益が目の前にあるかのような気分をかき立てるだけのものだからなお悪い。
 将来へ向けての禍根として致命的なのは、徹底した民主主義の否定だ。情報隠し(処分)、野党の質問時間の削減、そして世間であまり言われないが、私が問題視するのは衆議院の解散権の私物化である。
 安倍政権は国政選挙で6連勝の結果だという。そのうち2回は衆議院の解散による選挙である。今年の7月の参議院選挙も、最後の最後まで衆議院との同日選挙が噂されていた。自分たちが勝てるタイミングだけを窺う。大義名分なんてどうにでもなる。本当に民意を問うことが必要なのではないのだ。
 今現在、何か政治的な判断ミスをしても、よほどのことでない限り、いずれ回復は可能だ。しかし、民主主義のシステムそのものが崩されてしまったら、世の中が間違った方向に進んでいった時に、回復させる方法がない。だからこそ、裁判所の違憲立法審査において、経済的自由には緩やかな、精神的自由(思想信条とその表現)には厳しい基準で判断するというダブルスタンダード理論も生まれてくるのである。そもそも、安倍政権のように情報を隠蔽すれば、世の中が間違っているかどうか、なぜ間違っているのかという判断もできない。メチャクチャである。
 それでいて、口先では実に神妙に「誠実に、丁寧に説明責任を果たしていく」とか、「謙虚に政権運営をしていきたい」とか語るから、こちらの神経を逆なでするのである。
 もちろん、それは精神的に極めて厚かましい上に、国民の質というものを知り抜いているからできることである。大半の国民は、今現在の自分の利益にさえ関わってこなければ、大抵のことには無関心。だから、表面上の模範解答をして、しらを切り通せば、やがてはゴタゴタも収束する、と考えているのである。マスコミがいくら騒いでも、新聞さえ読まない国民に、それが影響を与えることはない。だから、マスコミを叩く必要もない。知らん顔をしておけばいいのである。ある意味で実に正しい。
 世論調査の結果を見ていても、安倍政権は積極的な支持を受けていると言うよりも、他に適当な人がいないから容認するしかない、というような支持のされ方をしている。見たところ、自民党の議員たちも不甲斐ないが、野党も不甲斐ない。
 自民党というのは、権力と金に対する執着のすさまじい党である。それが強い求心力の原点になっている。大臣になりたくてうずうずしている議員がたくさんいるらしい。安倍が首相をしている限り、あまり大きな内閣改造は望めず、しかも選挙で勝っているということは、当選回数が多い議員が増えているということでもある。したがって、以前であれば、当選回数の故に大臣になれた人が、今はなかなかなれない。それでも、議員の地位を失うよりははるかにましである。大臣になれないのはしゃくだが、安倍の下で従順にしていた方がいい。まぁ、そういうことろであろう。
 一方、野党は、お金の配分に関して自民党とある程度の意見の違いはあるにしても、困ったことに、経済成長路線、もっと経済的に豊かな日本を作るという点で、自民党とは同じ穴の狢である。路線の違いを明確にするのは難しい。徹底的に権力と金にこだわることは分かりやすくて簡単だが、それを適度に崩すというのは難しいのである。それが野党が強くなりきれない理由である。
 私がよく言うことなのだが、それでも、今の政治家たちは国民による選択の結果である。政治家は国民を映す鏡だ。投票に行かない人がたくさんいるから、自民党だって有権者全体の○%の支持しか得ていない、などと言ってもダメである。投票に行かない人がいることも含めて、国民の質の反映なのだから。
 「桜を見る会」もひどい。そして、この問題でもまた、お得意の情報隠蔽が行われているようだ。一部の報道では、いよいよ安倍政権も窮地だ、あと何日保つか、というようなことが語られていたりするが、私は、この問題で近いうちに首相辞任などということが起こるとは思っていない。既に書いたとおり、神妙に「誠実に、丁寧に説明責任を果たしていく」とか、「謙虚に政権運営をしていきたい」とか言いながら、野党が根負けしたり、マスコミが話題に新鮮味を失って大人しくなるのを待つだけのことだ。
 本人は、表には出さなくても、得意満々なのだろうが、この安倍長期政権は、長い目で見れば間違いなく日本史の汚点になる。「現在の利益と将来の利益は矛盾する」という法則は、常に肝に銘じていなければならない。