修学旅行に向けて・・・平居の勉強会

 今日は本当なら終業式。もちろん例の肺炎騒ぎで中止。のはずだったが、それはあんまりだということで、来週の月曜日、もともと離任式が予定されていたのだが、それと抱き合わせで実施することになった。
 3月は、以前書いたとおり、入試業務の日が多くて、休校になっても暇になったという感じは全然ないのだが、17日からは3日間だけ午前授業が予定されていたので、それがなくなった分だけは仕事が減った。いやいや、部活の指導に明け暮れていた人にとっては、部活がないことこそ大きいかも知れない。
 それらの状況が見えてきた時、私の頭の中にふと浮かんだのは、これは貴重な時間だぞ、修学旅行へ向けての教員学習会をやってはどうか?という案だった。机に向かっての勉強をするのは気が重いだろうし、準備をするのもたいへんなので、ビデオ上映会がいい。我ながら妙案!
 いくら学年主任とは言え、「必ず出て下さい」と強制することはできないので、次のような文面のチラシを作り、スタッフに配った。

「授業も部活もなくなってこれ幸い。まとまった時間(すごく貴重!!)がないとできない教員学習会(映像編)を開催します。参加は任意ですが、時間の都合が付くのであれば、仕事を抜きに、雑学としてでも、個人旅行のためにでもご参加下さい。」
(ここにスケジュール等が入る=省略)
「偉そうな物言いで申し訳ないのですが、残念ながら、修学旅行で生徒を引率するに当たり、建築を始めとする文化財や町の構造、歴史的事情について熱心に勉強している教員をあまり見たことがありません。教員が勉強してそれらの価値について確信を持ち、生徒にそれを語ることが出来なければ、生徒が文化財に見向きもしない、もしくは文化財よりも商業的な施設に目を向けるのは当然です。
 私は、京都奈良の文化財には「本物」としての価値があり、それを生徒に見せることができるのはとてもいいことだと思っています。しかしながら、何ら予習をせずに見て仕組みや価値が分かるほど、凡人の目はよくできていません。また、勉強すると(特に舞台裏を知ると)思い入れを持って真剣に見るようになり、それが見えるものの量を増やす、ということにもなります。本当に価値あるものは勉強することを求めます。勉強をしなくても分かるものはその程度の価値しかないものだ、と私は思います。しっかりと予習をして見るべきポイントを把握し、その上で素直な気持ちで実物に向き合うことが大切だと思います(だから私は、TDLUSJが、個人の好き嫌いはともかく、少なくとも学校教育には馴染まないと思っているわけです)。
 学年会で配布した資料の一覧、今回の映像は、あくまでも私の知っている範囲のものです。他にいいものをお持ちの方がいれば、ぜひ提供して下さい。そうして学び合えると、世の中はよりいっそう深く面白くなると思うですが・・・。」

 というわけで、私が選んだのは次の3本である。
3月18日:映画「鬼に訊け 宮大工・西岡常一の遺言」(88分)
3月23日:NHK特集「世界遺産 西本願寺御影堂10年大修復(前編)」(89分)
3月24日:同 「 同 (後編)」(89分)
 これらは私個人が所有しているDVDであり、既に何回か見ているのだが、特に飽きるということもない。何回見ても、心から素晴らしいと思う。
 「鬼に訊け」の舞台は法隆寺薬師寺である。あまりにも有名なこれらの寺に関する映画や番組は多い。ところが、残念ながら、どれもこれも「帯に短し、たすきに長し」といった趣で、決定版と言っていいような、これさえ見れば十分だという映像作品がない。「鬼に訊け」も、古寺の歴史、様式、構造、建築技術といったものよりは、「西岡常一」という伝説的宮大工の人生(人間)に焦点を当てている感じで、西岡ファンにはいいのかも知れないが、法隆寺薬師寺、あるいは寺社建築を知りたいと思う人にとっては、少し中途半端な気分にさせられる作品だ。しかし、50分番組なら今後も上映会はできそうな気がするが、90分という時間を取れるチャンスはまずないだろう。というわけで、この作品にした。
 一方、「西本願寺」は文句なしに素晴らしい。前編は、屋根の葺き替えや背後の土壁の塗り直しを中心に、建築物そのものの修理、後編は内陣の装飾の修理を丹念に追っている。一つ一つの作業に主人公が居り、しかも、補修のための材料を生産している全国の名もなき職人に光を当てているのも素晴らしい。
 日本の伝統技術がいかに優れているか、そしてそれらが、実に多くの場所の様々な人々の地道な努力によって支えられているかということがよく分かる。西岡のようなスーパースターばかりが目立つよりも、はるかに文化の奥行きや豊かさといったものがよく感じられる。この映像を見るか見ないかで、西本願寺、あるいは古寺の見え方は天と地ほど違ってくる。少なくとも私ならそうだ。
 私が生徒に学ばせたいのは、手間は価値だ、ということだ。本当に価値あるものには、気の遠くなるほどの手間がかけられている。言い換えれば、本当に手間のかかったものだけが高い価値を持つ。そういうことである。
 私以外に1名以上の参加で開催しますと宣伝した「平居の学習会」は、幸いにして、毎回5~10名の参加があり、私としては一安心、といったところであった。さて、今回これらの映像を見たスタッフが、実際に生徒を指導していく上でどう動くか?・・・いやいや、「雑学としてでも、個人旅行のためにでも」と書いた手前、あまり期待しないことにしよう。