驚き!漢字の表現力

(5月26日付「学年だより」№47より①)

 雨降りで、庭仕事も散歩も出来なかった土曜日の午前、私は自宅で道楽である中国史のお勉強をしていた。読んでいたのは、1929年に書かれた中国共産党の内部文書である。
 見たことのない文字が目に止まった。「国民党」(←手書きの「学年だより」では問題ないが、PCでは出せない。国民党という三文字の全てに獣偏が付いている。原文は旧字体)とある。当時、共産党と敵対関係にあった国民党のことであるとはすぐに分かった。国民党という言葉はたくさん出てくるが、「国民党(獣偏付き)」という表記は1箇所だけだ。こんな漢字存在するのかなぁ?と思い、日本人が作った世界最大の漢字辞典=『大漢和辞典』(全12巻)で探した。
 出版当時発見されていた全ての漢字、約5万3百字を集めたとされる『大漢和辞典』にも、「民」と「党」は存在せず、「国」だけは見つかったが、中国の古い字書に載っているだけで、実際にその字を使った文章は見つけられていないようだ。「義未詳」と書かれている。それらは、共産党がにわかに作った漢字なのだ。「国民党」に獣偏を付けることによって、国民党の連中が「人間ではない」=「獣のような」奴らだという思いを表現している(国民党は共産党を弾圧し、党員を大量に殺しているから、あながち不当な表現とは言えない)。そんな思いが、字を見た瞬間にはっきりと伝わってくる。
 「漢字は言葉だ」というのは、現代文の授業で漢字学習をする時の私の口癖だが、漢字は、文字全体が言葉であるだけではなく、パーツ(偏やつくり、構えなど)もまた言葉なのだ。なんという表現力豊かな文字だろう!文書の内容を離れて、そんなことにひどく感心した私であった。

(ブログ用の注:読んでいた文書は1929年6月の「中国共産党第6期2中全会 職工運動決議」。この文書は日本国際問題研究会中国部会編『中国共産党史資料集第四巻』(勁草書房、1972年)に「労働運動決議」として訳出されており、割り注(410頁)に、原文が獣偏付きの「国民党」であると書かれている。中央檔案館編『中共中央文件選集第五巻』(中共中央党校出版社、1990年)所収の中国語文は、残念ながら獣偏なし、ただの「国民党」になっていて、「注」も付いていない。波田野乾一編『資料集成 中国共産党史第一巻』(時事通信社、1961年)所収の邦訳「労働決議」(338頁)も同様(ただし旧字体)である。『中国共産党史資料集』の邦訳は原典、すなわち1929年刊の『二中全会決議集』から直接訳したようだ。また、我が家にある『大漢和辞典』は1959年刊の旧版。ただし、昨日学校で新版を確認してみたが、やはり獣偏付きの「民」「党」は載っていなかった。)

 

今日の裏面は小さな記事を二つ。

裏面①2020年1月23日付毎日新聞より「今どきサイエンス」欄「三つの無とキリンの首」(鴨志田公男筆)を貼り付け。
平居コメント:キリンの首はともかく、「役に立つ」「役に立たない」を考えるために。
裏面②2019年12月31日付読売新聞「『ざんねんな』個性に共感」を貼り付け。
平居コメント:『ざんねんないきもの事典』は、今年5月5日に発表された「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」で1位になった。このシリーズは、なんとびっくり!!『続ざんねんないきもの事典』『続々~』『もっと~』と、その時点で出版されていた4冊の全てがベストテン入りを果たした!!(現在は『さらに~』が出て5冊になっている)。「小学生がえらぶ」だからといって、バカにしてはいけない。絵本ファンの大人もたくさんいるとおり、本当に価値あるものは年齢に関係なく感動を与える。この本が「本当に価値あるもの」かどうか・・・それは自分で読んで判断して下さい。