少年野球と最強台風

 台風10号は、数日前から史上最強クラスの台風になることが予想されていた。日本列島から小笠原にかけての広大な海域で、水温が30℃を超えているというのは、想像を絶することである。この石巻さえ、終わりの見えない暑さが続いているが、いくらフェーンとは言え、9月に入ってから40℃を超えたところがあるというのも驚きだ。
 それでも、見たところ日本人のほぼ全員が、最強台風や40℃と自分の生活が密接に関係していることなんて意識していない。人によっては、そんな自然を恨んでさえいるだろう。実におめでたい話だ。
 さて、一見話は変わる。
 昨日の朝、息子が私に話があるという。市内の少年野球選抜チームを作るという話がある、選ばれたら参加していいか?ということだ。聞けば、週に3日だか、郊外の野球場で、18:00~19:30に練習するのだという(・・・練習だけで済むわけがない)。私はいいとは言えない、と答えた。その上で、自分の考えははっきり伝えた方がいいと思い、子どもにどこまで分かるかな、と思いつつ、以下のような話をした。

「パパは、子どものやることに大人が手を出すことが、そもそもいいと思っていないのだよ。もともと、子どもには子どもの時間があって、その中で子どもたち同志が勝手にいろいろなことをやっていた。子どもの時間というのは、5時とか5時半とかまでだ。その中で、子どもがいくら一生懸命野球をやったって、パパはそれを止めたり絶対にしない。
 だけど、今は大人が練習から試合まで全て準備し、車を連ねて県内を走り回って、試合試合だ。練習だって、親が迎えに来ることを前提に、暗くなるまでやっている。場合によってはナイターの試合まで組まれる。最近よく『野球ひじ』が問題になって、投球回数を制限したりしているのは知っていると思うけど、それは大人が子どもの力以上のことをやらせるから起こってくる問題だ。子どもだけで野球をやっていれば、時間だって限られるし、他校との試合はほとんど組めないけど、『野球ひじ』になることも絶対にないと思う。大人に準備してもらって野球をする方が楽しいには違いないけど、本当はやってはいけないことなのだよ。ま、やってはいけないのは、大人の側であって、子どもにこんなことを言うのは酷なんだけどね・・・。
 今、九州にすごい台風が来ていて、それが温暖化の影響だと言われていることは知っていると思うけど、それだって、人間が石油の力を借りて人間本来の力以上のことをやった結果として起こってきた問題なんだ。大人の力によって成り立っている少年野球も、自分の力以上のことをしているという意味で同じだ。とにかく、自分以上の力で何かをしていると、必ず無理がたまって問題が発生するんだ。
 パパは、大人がそこまでして子どもに野球をやらせるのは、子どものためではなくて、自分が楽しいからだと思っている。そしてそもそも、そうして幼いうちから無理なことをせず、年齢に応じたことをしていても、最終的には同じレベルにまで到達できると思っている。『選ばれた』とかいうと、自分が評価されたことが嬉しくなるし、頑張りたくもなってくるだろうけど、パパは、そうして大人が子どもの優越感をくすぐりながら、野球が全てというような生活をさせることは止めて欲しいと思っている。
 と言うわけで、自分の子どもが参加するのをいいとは思っていないのさ。今のチームの活動だけでも十分にやり過ぎだと思っていて、更に野球の時間を増やすなんて考えられないのだよ。」

 とりあえず、息子は「わかった」と神妙に言っていた。変なことを言い出す大人がいたばっかりに、変な父親から小難しい話を聞かされて辛い思いをするのは、少し気の毒である。

  少年野球の選抜チーム、そもそもいったい誰が、何のために言いだしたのだろう?その人は、子どもにとって適切なスポーツのあり方をどのように考えているのだろう?私は、「そんな小難しいこと」は何も考えていない、と推測している。競技団体には、そのスポーツが全てという人が少なくない。
 もともと息子に野球を教えたのは私なのだが、今、この極めて非協力的な父親の下で、子どもがどうやって少年野球を続けているかについては、差し障りがあるかも知れないので書かない。上の問題がその後どうなったかについても、おそらく書かない。ただ、いずれにしても、全ては人間が石油を燃やすことで自分以上の力を手に入れ、時間に余裕が生じてきた結果であることは間違いないだろう。「文明」の一部なのだ。その圧倒的なパワーと人々のそれに対する疑いのなさを前に、私はあまりにも無力である。