カモシカとの遭遇

 本当は、昨日から今日にかけて山小屋(仙台一高井戸沢小屋)に行っているはずであった。仙台一高山の会(山岳部OB会)の山小屋ツアーに、早くから参加の意志を表明し、例によって「伯楽星」も入手、楽しみにしていたのである。
 ところが、数日前になって気がついた。県から、高校入試をつつがなく終わらせるため、部活動を3月10日頃まで自粛するようにという正式のお達しがあり、職員が2~3人連れ立ってどこかに飲食に行くのも、禁止とは言われていないけれども、非常に憚られる雰囲気がある。一方、山小屋は10人近くのツアーで、鍋をつつきながら、延々数時間は酒を飲むことになるはずだ。しかも、首都圏からの参加者もいる。2~3人が塩釜駅前で2時間酒を飲むことも難しいのに、そんな山小屋ツアーが許されるわけがない。それでも、コロナに感染する確率は微々たるものであろうが、万が一にも感染して、高校入試が予定通りに行えない事態にでもなれば、危機管理意識が低すぎると袋叩きにされるだろう。そこまでして行くようなものでもないな。と言うわけで、2日前になって泣く泣く参加を断念し、家で大人しくしていることにしたのである。
 今日の午前中は、いつもの休日通り、牧山に走りに行った。少し風はあったが、気温が10℃くらいまで上がって、いいコンディションだ。我が家から日和大橋を渡って、大門崎からいよいよ尾根道に入る。
 最初の急坂を上って、やや平坦になったあたりだっただろうか、50mほど先の道脇に1.5mほどの高さの中途半端な場所で切られた木のようなものが見えた。熟知している道である。変だなと思いながら30mくらいまで近づいた時、それが動物であることに気がついた。今までも、ウサギやイタチを見たことはあったけれども、はるかに大きい。シカでもないようだ。じっと動かない。カモシカではないだろうか?
 半年か1年か・・・ずいぶん前の話だが、「石巻かほく」という地元紙で、この大門崎~牧山の尾根道で撮られたカモシカの写真を見たことがある。当然、その頃も、私はほとんど毎週、この道を走っていたから、私もいずれはカモシカを見る機会があるのかな、と思った。ところが、そんな機会はないままに、時間が経っていっていた。ついにその機会が来たのではないか?しかし、視力の非常に弱い私には、それをはっきりと確認するにはまだ至らなかった。
 なにしろ、じっと動かないのである。保護色の上、動かない動物は、その形状を認識しにくい。カモシカらしき動物がいるのに、そのまま走って行くわけにもいかない。不用意に近づいて、向こうが恐怖を感じ、開き直って突っ込んでこられても困る。カモシカが人を襲ったという話は聞いたことがないが、あり得ないわけでもないだろう。いくら草食動物でも、相手は私の3倍か4倍くらいの体重はあるだろうから、接触すれば怪我をするのは私だ。
 じっと私の方を見ている。カモシカの視力がどれくらいかは知らないが、私のことは認識できているだろう。私は、少し下がってみたり、わざと視線をそらしてみたり、どけろという仕草をしたりしてみたが、ピタリと動かない。長い時間が経って(実際には3分前後か?)、石でもひょいと投げてみようか(=ぶつけるつもりではなく)、と思い始めた時、相手はのそりと動き始めた。私から見て左に向きを変える。ここでそれがやせたカモシカであるとはっきり分かった。カモシカは森の中に入った。しかし、再びそこで立ち止まる。この体勢なら私めがけて突進してくることはないのではないか?と思ったので、私は静かに前進した。カモシカまで5mくらいの所まで行った時、カモシカは森の奥へと更に10歩くらいゆっくりと進んだ。私は、走って通り過ぎた。
 やれやれ、だけど貴重なものを見た、と思いながら、緩い傾斜の坂道を調子よく走って行った時、突然、わずか5m前方で大きな動物が動き、勢いよく森の中へ駆け込んでいった。2頭のよく肥えたカモシカだ。先ほどのカモシカより、山道の縁、森との境目の所にいて、木と姿が重なり合っていたから気がつかなかったのだ。相手も驚いたようだが、私も驚いた。その驚きは、至近距離でカモシカに遭遇したというだけではなく、これまで3年以上(牧山を初めて自分のマラソンコースにした時の記事→こちら)、週1回のペースでこの尾根道を走っていながら、1度も見ることができていなかった動物と、1日に2度出会った驚きでもあった。
 カモシカは、奥羽山脈を歩いていると時々見かける。特別天然記念物に指定されているらしいが、どう考えても珍しい動物ではない。遂に石巻の街の近くにまで生息域を広げてきた。シカは駆除され、ジビエとしても流通しているのに、カモシカは保護される。なんだか不公平だ。走りに行って時々出会うのは、変化があってなんとなく楽しいけど・・・。