近くの温泉・大旅行(3)

 600mの峠越えで雪は見られるかなぁ?と思っていたところ、意外にも、福島を出て間もなく、庭坂駅を過ぎたあたりから、線路際に雪が見えるようになった。その後、標高が上がるにつれて雪はどんどん増え、辺り一面の雪景色となった。これは山間部だけではない。さすがに板谷や峠の駅界隈ほどではないけれど、その後ずっと、新庄に至るまで沿線は雪に埋もれていた。
 雪の多い所と少ない所、それがどうやって決まっているのかは不思議だった。峠~新庄で最も雪が少なかったのは山形市の中心部で、米沢、新庄もさほどでない。やはり都市部は雪が少ないらしい。一方、最も雪が多かったのは、天童~舟形(新庄市の南)あたりだった。さすがに3月の締まった雪にはなっていたが、1月~2月が「豪雪」であったことを想像させる多くの雪が残っている。駅に着いても、ホームに積もった雪で、反対側のホームや駅舎が見えないほどだった。一方、新庄で陸羽東線に乗り換えた時には、県境(標高350m)に向けて標高が上がっていく奥羽山脈越えの路線だから、どんどん雪が増えて行くに違いないと思っていたところ、逆に雪は少なくなっていった。こういった残雪量の変化を観察しているだけでも、私なんかは退屈しない。
 幸い、列車が全て定刻で動いていたため、予定通り17:24に川渡温泉駅に着いた。その時の列車は、2両編成のワンマンカーだった。「石巻川渡温泉」の切符を、石巻とは逆方向から来る列車を降りる時に見せれば、奇異の目で見られるのではないかと思っていたが、昨日書いたのと同様、まったくの杞憂であった。こちらが逆にがっかりするほど、運転手氏は無表情に切符を受け取った。
 330.1㎞、8時間20分の旅行はこれで終了。私はいろいろなものを観察しながら、充実の一日を過ごしたわけだが、やはり家族には不評だったようだ。子どもは「最悪の一日だった」などと言っている。それは、車窓から面白さを発見できない者の責任で、少なくとも私は、小学校時代以来、そういう観察旅行が大好きだった。子どもというのは、血を引いているとは言っても、親に似るとは限らないものなのだ。今更ながらに少し寂しくそう感じた次第。
 ところで、こんな旅行が1340円でできるというのは素敵なことだと思うが、それは長大な過程に価値を認めればの話。しかも、それはあくまでも1人の往路運賃なので、家族4人(うち1人は小学生)で復路も含めると、交通費は9380円となる。一方、我が家から車に4人乗って川渡温泉を往復する時のガソリン代は、おそらく1200円くらいである。つまり、JRの大人片道運賃で、家族が往復できるわけだ。なるほど、いくら事故の加害者になるリスクを負担しなくて済むとか言ってみても、これでは私のような物好きしか鉄道は使わないわけだな。
 鉄道が高いというよりは、ガソリンが不当に安いのだ。環境への大きな負担、貴重な資源の消費ということを考えると、車の方が高いけれども、その利便性を考えてやむなく車を使う、というくらいの状況を政策的に作らなければ、パリ協定の目標達成など夢のまた夢だ。
 自分の意志では急ぐこともできないのんびりした時間。変化して行く車窓の風景。やはり「旅行は線」である。よくよく考えてみれば、コロナ禍によって県外へ出たのは一昨年、2019年10月11日に、登山の新人大会で山形県最上町に行って以来のことだった。そんなことも含めて、300㎞以上も離れた(笑)東北のひなびた温泉への1泊旅行は、私としては新鮮で楽しいものだった。(完)