敦煌と沖縄

(すみません。うまくタイトルが付けられなかったので、「敦煌と沖縄」としてみたものの、両者は何の関係もありません。)

 今日は、朝から映画を2本も見た。とても珍しい。
 まず午前、借りてきた「敦煌」(佐藤純彌監督、1988年)。ちょっとした事情で、1週間ほど前に井上靖の小説『敦煌』を久しぶりで読み直したところ、この映画を思い出した。学生生活を終え、就職までの間に中南米を旅行しようと思いつつ、教員採用試験を受けるためにぼやーっと日々を過ごしていた時期、映画館に足を運んだ記憶があるのだが、その記憶もかなり曖昧で、当然のこと、内容については全く憶えていない。
 小説を読んでから、それが映画化されたものを見て、映画の方がよかったという経験は皆無である。「敦煌」はなかなかの力作で、退屈することなく最後まで見ることができた。しかしやはり、小説よりも映画の方が出来がいいとは思わなかったし、そもそも、小説を先に読んで、映画で表現し切れていない部分を頭の中で補いながら見ないと、今ひとつ、何が起こっているのかが伝わりにくいのではないか、と思った。
 第12回日本アカデミー賞で、最優秀作品賞をはじめ、7つの部門で最優秀賞を受けた。製作にかかった費用35億円も膨大だが、興行収入が85億円に達し、映画としては大成功を収めた。確かに、まだ一般人が中国を自由に旅行できなかった時代、実際に西域の砂漠でロケを行った映像は貴重である。当時の軍隊が何千、何万という規模であったことを思うと、合戦シーンはいかにも迫力に乏しいようにも感じるが、馬やラクダを数百の単位で動員し、実際に砂漠の中を走り回らせてカメラを回すのは容易ではないはずだ。ひとつひとつのシーンの「絵」としての美しさは印象的だった。
 午後は、石巻市内のライブハウス「ラ・ストラーダ」に、「パラダイスビュー」(高嶺剛監督、1985年)を見に行った。以前にもこのライブハウスのことは書いたことがある。薬剤師と翻訳家のご夫婦が経営している、せいぜい20人くらいしか入らない小さなライブハウスである。副業もしくは趣味でやっているのだからまだいいようなものの、それでも、コロナ問題でライブの開催が難しくなり、少なくとも家賃はかかるわけだから、大変だろうなぁ、どうしているかなぁ、と思っていたところ、「石巻かほく」というローカル紙で、2月に音楽映画「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」を上映するという記事を目にした。
 「ラ・ストラーダ」が健在であることを知ったのも嬉しかったし、「ブエナ」にも非常に心引かれたのだが、残念ながら、記事が出たのは上映前日(前々日?)の話。既に予定の入っていた私は行けなかった。演目は忘れたが、3月にも同様の上映会があった。その時も、前日だったか前々日だったかの記事で知り、やはり行けず。そして今回も同様だったが、たまたま予定のない日だったので、初めて行けることになったのである。
 「パラダイスビュー」というのは、私の知らない映画だったのだが、新聞記事によれば、沖縄の役者・ミュージシャンが多数出演し、台詞は沖縄語で、日本語による字幕が付くらしい。沖縄音楽にも心引かれるが、字幕を必要とするほどの「沖縄語」というものにも心引かれた。「ウチナンチュ」「チュラウミ」「ヌチドゥ」といった単語はいくつか知っているものので、「語」と呼ばれるほどの体系は私にとって完全に未知の世界だ。経営者夫妻ともご無沙汰しているので、ご機嫌伺いをしたいという思いもあって出かけた。
 1985年の公開ではあるが、映画の中の世界は1970年かそれより少し前と思われる。沖縄語が演技としてではなく、非常に自然な感じで使われていること、車が左ハンドルで、ナンバーが日本仕様ではないということ、財布の中のお金が、はっきりとは見えなかったが、その色からして米ドル札と思われること、がその理由だ。沖縄が日本に返還されたのは1972年のことである。
 沖縄語には驚いた。理解できる部分がごくごくわずか。まるで韓国語を聞いているようだった。なるほど、確かに「弁(方言)」ではなく、「語」なわけだ。音楽映画だと思って行ったのは失敗。別に音楽を聴かせることをテーマとするわけではなく、他の映画の中での音楽の使われ方と大差がない。
 登場人物たちにも、日本人離れした風貌の人が多く、なんだかインドシナ半島の田舎かインドネシアあたりを舞台にした映画に感じられた。流れている音楽も、一部を除くとガムラン風だ。ストーリーは奇想天外で、沖縄文化に関する基礎的知識がないと、なおのことよく分からない。113分の映画なのだが、結局、私は最後まで何が起こっているのかよく分からず、時間はひどく長く感じられた。ま、異文化体験としてそれなりに新鮮だった、というのが前向きなとらえ方。
 今後も、毎月一度、音楽に面白みのある映画を上映するらしい。5月、6月の予定は教えてもらったので、今度は初めから予定に入れて行けるようにしよう。