台湾問題について

 先週末に行われた日米首脳会談の共同声明で、両国が台湾問題に言及したことが大きなニュースとなった。何しろ中国との関係を考えれば、触らないに越したことのない問題。それゆえ、日米首脳の共同文書による言及は、実に52年ぶりというから、大きなニュースになるのも無理はない。今日は、この問題について考えてみよう。
 言及というのは、「台湾海峡の平和と安定の重要性について(日米両国間で)確認した」というものである。何が言いたいのか分かりにくいが、要は台湾海峡をまたいで戦争はしないということであり、実質的に台湾の独立性を尊重する、ということなのだろうと思う。
 言うまでもなく、中国は台湾を自国領だとし、それを「一つの中国」と表現している。実際、私が中国で買った「中華人民共和国全図」で、台湾は一つの省として扱われている。そのため、日米の共同宣言を内政干渉だとし、激しく反発しているらしい。
 一方、台湾で買った「中華民国全図」では、台湾に加えて、中国とモンゴルが全て中華民国という位置づけだ。しかし、中国は本気で台湾を自国領と考えているのに対して、おそらく台湾が中国とモンゴルを中華民国とするのは形式的であって、実際には、台湾を一つの独立国として考えているだろう。したがって、自分たちの独立を肯定的に見る共同宣言は、非常に歓迎すべきメッセージだということになる。台湾外交部は「心からの感謝」を表明した。
 1927年から本格化した、大陸における共産党と国民党の支配権争いは、日中戦争を経て、1947年から最終決着を目指す本格的な内戦となり、最終的に国民党が敗れて、指導者・蒋介石は数十万の軍隊とともに台湾に逃れた。共産党がそれを追走するためにどれだけのエネルギーを費やしたか、私は知らない。共産党は1949年10月に中華人民共和国(以下、中国)の建国を宣言し、新しい国家の建設にエネルギーを傾注する必要に迫られたから、おそらくそれどころの話ではなかっただろう。その後、「大陸=共産党支配=中華人民共和国社会主義)」、「台湾=国民党支配=中華民国(資本主義)」という図式は固定化され、多少の衝突を繰り返しながらも、70年が過ぎた。
 私は中国の「一つの中国」という主張には無理があるだろうと思っている。1949年に最後まで追い詰め、国民党を根絶やしにしなかったのが悪いのだ。国民党は台湾に逃れて独立国家を作ったのである。70年間それぞれが違う政治体制で国作りに励んだ後で、「もともと中国の一部だ」というのは不当だ。そもそも、国なり地方なりというのは、そこに住んでいる人にとっていいように統治されるべきである。台湾の人々が中国に吸収されることを望んでいないとすれば、今更、中国が台湾を併合しようとするのは、植民地化政策と同じことであって、認められるべきではない。
 台湾=中華民国に限らず、どこを独立国家として認めるかという判断は、第三国の主体性の問題である。台湾を独立国家と考えることは、中国に対する内政干渉にはならない。しかし、台湾を国として認めることを絶対に許さない、そんなことをしたら断行だと中国が言う場合、第三国は中国と台湾の二者択一を迫られることになる。主に経済的な問題からそれができないから、日米共同宣言も多少遠回しな、歯切れの悪い表現になっているのだろう。
 おそらく、中国と台湾の軍事力の差は大きい。中国が本気になれば、今からでも台湾を武力征服することは可能だろう。なぜ中国がそれをしないかと言えば、アメリカがそれを座視するわけがないと見込んでいるからであり、紛争が泥沼化し、最悪世界戦争へと発展することを恐れるからである。今回の共同宣言は、アメリカが「確かにそのとおりだ(そうするつもりだ)」と語るものである。日本がそこに絡んでいくのは危うい。
 話を元に戻す。70年越しの現状を力尽くで変更させるのは無理である。中国だって、どう考えてもそれが無理であることくらい分かりそうなものだ。経済発展を遂げた今の中国には、大きなエネルギーを費やしてまで台湾を併合するメリットがあるようにも思えない。メンツの問題を捨て、1949年に国民党を潰滅させなかった自分を責めつつ、あきらめて台湾を一つの国家として認める。より多くの人にとっての幸せを考えるなら、どうしてもそれしかない。