天地創造とフェスティバル・エクスプレス

 4月17日に続き(→その時の記事)、昨日は朝から映画を2本見た。「映画を2本」は正確ではない。午前中に見たのは、1986年にバーンスタインハイドン天地創造」を指揮したライブ録画である。
 バーンスタインバイエルン放送響の「天地創造」は、私の最もお気に入りの録音の一つで、かつて一文を書いたことがある(→こちら)。それがDVDで安く売られていることを知り、最近買った。聴き始めて間もなく、演奏が少し違うような気がしたので、CDとDVDの解説書を改めて見てみると、演奏者はまったく同じで、録音時期も同じ1986年6月(CDは日にちが書かれていない)なのだが、CDはミュンヘンヘラクレスザール、DVDはオットーボイレンのベネディクト修道院と書かれている。あまり問題ではない。
 CDを聴いていると、演奏者が本当に楽しそうに夢中になって演奏に参加していると感じられるのだが、映像で見てみると、バーンスタイン以外は何を考えているのか分からないまったくの無表情だ(つまらなさそう、ではなく、真剣ということ)。一連のバーンスタインウィーンフィルによる録画と同じく、ハンフリー・バートンがディレクターを務めているが、ちょっとバーンスタインを映している時間が短すぎるかな、と思った。明らかにバーンスタインの名前で売っているわけだし、指揮者に比べると演奏者の映像というのは圧倒的に単調なので、少なくとも8割くらいは指揮者にカメラを向けて欲しかった。
 演奏が終わると、その瞬間から修道院(実際にはど派手で巨大な教会)の鐘が鳴り始め、拍手は起こらない。鐘が鳴り終わったら拍手かなと思っていたら、鐘はいつまでも鳴り続け、演奏者も聴衆も退場を始めてしまった。バーンスタインがどのタイミングで退場したかもよく分からない。受難曲ならともかく、こんな明るいオラトリオで無拍手にしなくてもいいのに、と思った。拍手によって得られる高揚感というものも捨てがたい。
 あれこれグチめいたことを書いてきたが、素晴らしい曲であり演奏であることに変わりはない。ただ、この映像なら、CDだけで十分だ。
 午後は、前回と同じくラ・ストラーダ。演目は「Festival Express」。2003年にボブ・スミートン監督、オランダとイギリスで制作されたことになっているが、舞台は終始カナダである。1970年の7月、多くのミュージシャンが専用列車に乗って、トロントウィニペグカルガリーと公演を行った記録だ。コンサートだけではなく、列車の中での映像も豊富、無料で入ろうとして会場を閉め出された聴衆(?)と警官との乱闘なども描かれる。1970年のツアーの記録が映画化されるのに、なぜ2003年までかかったかというと、記録映像の存在が1995年になって始めて明らかになり、その後、ツアー参加者を訪ねてはインタビューを録画したりしていたかららしい。
 私は日頃、ロックン・ロールと言われる音楽を聴く機会はない。昨日も同じことを思ったのだが、人間とか社会との向き合い方が非常に未熟で、ただストレスを発散しているだけの音楽に聞こえてしまうのだ。その意味で、ずいぶん有名なスターが勢揃いらしいコンサートの映像も、猫に小判。ああ、こういう世界もあるのだなぁ、という以上の感慨はなかったのだが、映画としては面白かった。なにしろ私は舞台裏の大好きな人間なので(→参考記事)、列車の中とか場外での乱闘とか、舞台裏映像がたくさんというのはありがたいのだ。なにしろ、列車1編成が貸し切りで、走っている間中、彼らはずっと酒を飲みながら自分たちのために音楽しているのである。ただし、ドラッグも相当使われていたらしく、雰囲気はかなり退廃的。私のロックン・ロールに対する印象(=偏見?)と重なり合う。
 主催者と聴衆との間に、映像化されている以上にトラブルが多かったらしく、このツアーは1回きりで終わってしまった(インタビューに登場した主催者ケン・ウォーカーは、もうこりごりだ、といった体だった)。だからこそ、貴重な記録として、後に映画化されたということなのだろう。
 いいなぁ、月に1回というほどよいペースで、我が家から歩いて15分の所で、日頃目を向けることのない分野の映画に接することができるというのは・・・。