「上り」と「下り」

 以前から少し不思議に思っていたことがあって、その理屈が最近少し分かったような気になってきたので書いておこうと思う。
 不思議に思っていたこととは、私が日頃利用しているJR仙石線の列車交換についてだ。仙石線は、東塩釜石巻間が単線である。快速列車(仙石東北ライン=高城町~仙台を東北本線で運行)による普通列車の追い越しはしないことになっているようだが、列車交換というのがある。単線なので、行き違いは駅でしか出来ない。この場合、車両と車両との間にはホームがあって、こすれるような感じはないので、「すれ違い」とは言わない。「列車交換」と言う。本当に鬱陶しい。しかも、仙石線の場合、ホームが片側一面しかない駅が多く、単線区間内にある16駅のうち、列車交換の出来る駅は半分の8駅しかない。駅間距離もバラバラだ。そのため、快速列車が、列車交換のために、通過駅に止まる場合もある(止まるのだから乗降可能にすればいいのに、高速運転に努力していることをアピールするためそれを認めず、通過駅扱いとしている。駅周辺に住む人には気の毒)。また、列車に遅れが出ると、待ち時間も長くなり、遅れの解消も難しくなる。単線と複線の輸送力の違いは非常に大きい。
 さて、上りと下りの列車が同時に駅に着くということはなく、どちらかの列車が先に駅に着いて反対方向から来る列車を待つ形になるのだが、私が見たところ、たいてい後から来た列車が先に出発するのだ。実にフェアでないと感じる。先着の列車が、後着の列車が着くと同時に出発するというのがスジだろう。しかも、更に不思議なことに、私が乗っている列車は、先着して待つ場合も後着した場合も、必ず反対側の列車が先に出発していくのだ。
 私は最初、それはマーフィーの法則なのではないか、と思った。つまり、自分がそう思うだけであって、実際には先着の場合も後着の場合も、先発の場合も後発の場合も、同じような確率で起こっているのではないか、と思ったのである。そこで、意識的にチェックしてみることにした。いつも通勤に使っている列車だけだと、パターンが同じであることは当たり前なので、休日に違う時間帯の列車に乗った時など、注意深く観察するのである。
 その結果、どうも私の印象は「思い込み」ではない、という結論に達した。そして更に、その結果からある法則が見えてきたのである。それは、午前中は上り列車に「待ち」が多く、下り列車が先に発車する、午後は下り列車に「待ち」が多く、上り列車が先に発車する、という法則だ。先に駅に着いた方の列車が駅に入る前に通過したポイントは、対向列車が来るまでに切り替える時間的余裕があるのに対して、進行方向のポイントは、対向列車が通過した後で切り替わるから遅くなる。だから、後着の列車が先に出発できるのかな、などと思ってもみたが、観察しているとそれも正しくない。
 このことに気付いた時思い浮かんだのは、1日にたった1本だけ走っている「特別快速」の存在である。仙石線(仙石東北ライン)には快速列車がほぼ1時間に1本の割合で走っているのだが、その快速列車には3種類がある。一つは仙台~高城町間全駅に止まった上で、野蒜、陸前小野、矢本、陸前赤井、蛇田、陸前山下と止まるもの。もう一つは、仙台~塩釜ノンストップで、その後は上と同じというもの。以上2種類の中には、例外的に石巻あゆみ野に止まるものもある。そして3つ目は、塩釜、高城町、矢本3駅にしか止まらないものだ。これを「特別快速」という。所要時間は上り・下り共に49分。普通の快速が54分から67分かかるので、それなりに速い。しかし、仙石線のように本数が少ないローカル支線では、本当はそんな快速列車は不便であり、邪魔なのである。
 しかも、設定ダイヤは、仙台発が9:25、石巻発が20:59である。これは、JRが仙台から石巻を日帰りする人の利便性を最優先に考えていることを、よく物語っている。実際には、石巻からは大量の人が仙台方面に通っているが、仙台から石巻に通っている人は少ない。しかも、仙台9:25発では、通勤・通学には使えない。いわば観光用ダイヤである。私は、酒を飲んで仙台に泊まった時、何度かこの特別快速で石巻に帰ったことがある。たいてい土曜日だ。いわば観光用ダイヤが本領を発揮する日なのであるが、例外なくガラガラであった。つまり、観光用としての需要に応えた列車でもないのだ。
 おそらく、特別快速というのは、JR東日本が「仙台~石巻、最短49分!!」と宣伝するために設定されているのだろう、と私は思っている。1日に1本しか無くても、そのような宣伝を嘘とは言えず、それを見て、「石巻~仙台の利便性はずいぶん向上した!」と評価する人もいるのだろう。
 それはともかく、この列車の存在は、JR東日本が、実際の需要とは関係なく、仙台を基準に列車を動かしていることをよく表している。そう思う時、列車交換における「待ち」の性質も実にすっきりと理解できるのだ。つまり、午前中は下り列車が先に出発、午後は上り列車が先に出発という理屈である。駅間距離の問題等があって、どちらが駅に先に着くかは必ずしも一定しないが、後着の列車到着後の出発順については間違いなくこの法則が成り立っている。
 私は朝、石巻から仙台方面に行き、夕方、石巻に戻る。したがって、仙台基準のダイヤには逆らうため、常に自分の乗っている列車が「待ち」または「後発」となる。それは断じて気のせいではないのだ。
 「待ち」の性質は明らかになったものの、この「理解」は決して「納得」ではない。先に着いて待っていた列車が、対向列車の到着を待ってすぐに出発することは簡単だ。そこに上りと下りの序列、更に言えば、仙台と地方都市との序列を持ち込んで、あえて時間をずらしているようだ。たいした時間の違いではないのだけれど、なんだか嫌らしい。