GIGAスクール構想に対する教員の態度

 今日は、仙台で教職員組合の勉強会に参加していた。基調講演とも言うべきお話のタイトルは、「GIGAスクール構想・ICT教育を巡る情勢と教職員組合の役割」であった。お話の後、意見交換が行われた。いろいろな人が話すのを聞きながら、ちょっとまずいぞ、と思ったのだが、何しろ私は頭が悪いので、そういう会話のペースについて行けない。どのように話そうかとあれこれと考え事をしている間に、話題は別な事へと移っていた。ところが、それも一段落すると、最後に何か言い残しはないか?みたいなことを司会者が言うので、私はためらいつつも手を挙げた。話したのは、以下のようなことである。

 

「意見を聞いていると、『デジタル化の動きは止められないから、これでやっていくしかない』というようなことを言う人が何人もいた。それはいいのだろうか?例えば、これがデジタル化ではなく、戦争だったとして、戦争へ向かって世の中が動き始めた時に、やはりその人達は同様の発言をし、戦争を遂行する方向に向かって動くのだろうか?問題は同じである。教員が、デジタル化に対してどう考えるかということで主体性を持つべきであって、悪いなら悪いと言うべきである。時代の流れだからどうしようもない、という意見はとても危険だ。
 私自身は、教育のデジタル化は非常にまずいと思っている。そもそも、なぜGIGAスクール構想などというものが出てきて、学校でデジタル化が推進されるかといえば、講演でも繰り返されていた通り、まず第一は商売だ。そして次に、官僚は自分たちの存在意義を作り出すために新しいことを始めたがる、ということだ。まして、その新しいことが利権につながるとなればなおさらである。
 私は、国語の教員だが、古典を含むいろいろな時代の文章を読みながら、人間は変わらない生き物であると感じている。昔の人が10年かかって身に付けたものは、私たちも身に付けるのに10年かかる。8年で済む人もいるかも知れないし、12年かかる人もいるかも知れないが、それは個人の資質の問題であって、方法を工夫すれば短縮できるというものではない。したがって、デジタル教材が効率的な成長をもたらすことはないだろう。
 人類100万年の歴史の中で、私たちが携帯電話を手にしたのは最後の30年、スマホは10年だ。物事の影響には短期的なものと長期的なものがある。デジタルが果たして人間の成長に悪影響を及ぼさないかどうかは、慎重に見極める必要がある。人は便利だという目先の利益にばかり飛びつくが、今、問題が起きないからと言って、何年経っても問題が起きないという保証はない。新しい技術を脳天気に信頼するのは非常に危険である。
 さきほど、講師から、若い教員に現場の状況なりそれについての自分の考えなりを書いて欲しいと依頼すると、長い文章は書けないので100字なら、というような回答を受けることが増えた、という話があった。私の経験から言えば、長い文章を書くのは簡単であり、本当に難しいのは、1000字、2000字分も書くことがあるのに、それを100字で書け、と言われることである。そして、書きたい多くのことを取捨選択し、整理し、言葉を磨いて短くした文章でなければ、いい文章にはならない。長い文章は書けないから100字で、という教員がいるとすれば、それは100字分のことしか考えられないということを暴露していることになる。それが本当にツイッターの影響なのかどうかは知らない。しかし、デジタルと無関係だとも言えない。原因が何であれ、教員がそのように能力を低下させているとしたら、生徒に対してどのような教育ができるかは推して知るべしであり、恐ろしいことだと思う。
 校内のICT担当教員の負担はおっしゃる通りかも知れないが、一方で、自分に活躍の場ができて喜んでいるコンピューター好きの教員が一定数いることも確かである。また、批判的に考える力を持たない人間は、管理職から『ICTだ』と言われれば、頑張ることが当たり前だと思って頑張る。これは、部活動顧問と同じ構図である。部活指導を自分の能力を発揮できる場として歓迎している教員、『○○部を担当しろ』と言われれば、それが自分の本来の職務であるかどうかなど考えず、『はい、頑張りますっ!』という人がそれなりにいるではないか。そんな現場の批判的思考力の低下が、教育のデジタル化を推し進めていることは間違いない。
 いずれにせよ、私たちはデジタル化をどうするかについて主体性を持たなければならないと思う。時代論、ご時世論などすべきでない。戦争は戦争、デジタルはデジタル、ではない。戦争にしても、デジタル化にしても、人間の性質がそれぞれの問題を通して表面化しているだけで、根は同じだということをしっかりと自覚すべきである。
 最後に、1月30日(だったかな?)に読売新聞に載った、教育の急激なデジタル化を考えるシンポジウムのまとめ記事は非常にいい記事だった(→参考記事)。広告なしで1面全部という大きな記事で、しかも、それを載せたのが政府寄りの言動が多い読売新聞だったという点にも値打ちがあった。学校図書館でたいてい持っていると思うので、ぜひ読んでみて欲しい。」 以上。