フィリピンの憂鬱

 フィリピンの大統領選挙で、フェルディナンド・マルコス氏が当選した。2位に2倍以上の差を付けての圧勝だったらしい。事前に予想されていたとおりである。よその国の事ながら、なんとも憂鬱になる話だ。
 父親は、1965年から1986年まで約20年にわたって独裁政治を行った大統領。ある程度の経済的発展を実現させつつも、正に独裁政権。専政的な手法で市民を抑圧し、最後には「ピープルパワー革命」によって失脚した。
 新大統領は、ドゥテルテ政権を継承し、反米親中で、中国との間に領土問題を抱えつつも、中国に接近する姿勢を見せている。そのこと自体は、いいとも悪いとも言えない。
 問題は選挙運動だ。父親の負の側面を徹底的に無視し、SNSで経済的繁栄を築いた存在としてアピールしたらしい。父親に関する不都合な質問をされると困るため、マスコミのインタビューや候補者討論会への出席はすべて頑なに拒んだ。その結果、「偉大なる繁栄」に憧れを抱く若者の心をつかんだ。更に驚くのは、政策(公約)をはっきり示していないらしいことだ。
 このような候補者が圧勝できる選挙って何なんだろう?国民は、マルコス氏のイメージ戦略にだまされて、極めて感情的に、ほとんど白紙委任をしたということではないか。日本の選挙もひどいと思うことしばしばだが、さすがにこれほどではないような気がする。
 もちろん、勝ちは勝ちである。こうして権力の座に就いた人が、何をし始めるかなんて見当が付かない。国民の歓心を買うために、経済的発展にはそれなりに力を尽くすだろうが、「手段を選ばず」になるだろう。領土問題を抱えながらの「親中」なんて、ありありと損得勘定が見えているし、それがいいとなれば、戦争だって選択肢に入るはずだ。逆に、温暖化対策なんて、まったくその視野には入らないだろう。
 報道を見て眉根にしわを寄せていても、何ら力にはならない。ロシア問題と同じ。世界が怒濤のようにおかしくなっていくのを目の当たりにしながら、何かの事情でこの動きが止まってくれないか、せめて自分の生活には累が及んで来ないように(←少し情けない)・・・と、ただただ祈るしかできない。