限りなき放漫財政

 先週の火曜日、国の借金が1000兆円を超えたというニュースが、各所で報じられていた。変だな、借金1000兆円超えというのは、かれこれ10年くらい前には言われていたことのような気がするが・・・。何しろ、借金とは言っても、「国債」発行額だけだったり、地方自治体の分を含んだり含まなかったりで、いろいろと数値が変わるようだ。私のような素人には非常に分かりにくい。
 分かりにくいとは言っても、ひとつ、とてもよく分かるのは、日本政府は天文学的数字の借金を抱えているということである。しかも、同日、前首相が「日銀は政府の子会社」だと発言したことなど、ほとんどどこにも危機感なんて存在しない。正常な感覚を失うとは、正にこのことだ。私は、1000兆円以上に、そのことに驚く。
 二つの新聞報道に触れよう。一つは、4月21日の朝日新聞「経済季評」(一橋大学准教授・竹内幹筆)である。見出しは「若者の未来にも救いを」。具体的な数字を挙げながら、日本の施策がいかに若者に冷たく、高齢者に手厚いものであるかを論じたとてもいい記事だ。少し例を紹介しておこう。

・コロナ犠牲者約3万人の86%が70歳以上である。
・コロナ禍が生じる前の2019年に亡くなった人は約138万人で、その85%は70歳以上であった。
・この2年間で4万人の自殺者がいるが、その約75%が70歳未満だ。
・2021年の国内出生数は約81万人、合計特殊出生率は1.3程度であるが、人工妊娠中絶は14万件を超えた。

 その上で、竹内氏は「保育所などの子育て支援策の前には、常に財政問題が立ちはだかった。だが、コロナウイルスという『国難』では、財政問題などなかったような大盤振る舞いがなされたのをみると複雑な気持ちにもなる」と書く。そして更に「高齢者世帯の金融資産は平均約1700万円であり、高齢夫婦世帯の持ち家比率も87%と高い。その高齢者に年金として年55兆円を給付する一方、7人に1人いる相対的貧困にある子どもへの支援などの政策には、財源がなかなか見つからない」ことを問題視する。当然である。
 竹内氏が言うように、コロナ対策は確かに間接的な高齢者支援である。いびずな年齢構成と投票率から、政治には高齢者の意見がより強く反映される。1票の価値が小さすぎるために、ほとんど意識されないことではあるが、それが具体化されているということだ。それでいて、将来1000兆円の借金を本当に返すとすれば、その主体となるのは若者である。
 もう一つの記事は、今月7日の毎日新聞に載ったコロナ医療費に関する記事である。第1面のトップ記事で、第2面にも巨大な解説記事が載る。見出しは、1面が「コロナ医療 国費16兆円 膨らむ不透明支出 地方創生交付金も投入」、2面が「ワクチン調達2.4兆円 『秘密保持』契約内容示さず 『1人7回分』確保」である(いずれも小見出し含む)。見出しでだいたいのことは分かると思う。要は「国家の一大事だ。お金がない?そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」と言って、見境のない放漫財政を進めた、ということである。
 見出しにあるとおり、政府は、1人7回分のワクチンを確保したそうだ。しかも、契約内容は秘密である。なぜ秘密にしなければならないのかは全然分からない。通常、薬価は政府が決定している。だから、当然全て公開されているが、それは治療薬であって、ワクチンは別なのだろうか。
 コロナ感染者の多寡が政権支持率に直結することを意識し、「国家の一大事」である以上に、「自民党の一大事」だったのだろうと思うが、他の政党が政権を握っていたとしても、同じようなことをやったと思う。いずれにせよ、間違いなく言えるのは、1000兆円も借金あるから、何とかしてそれを増やさないように、などという意識は皆無だということである。
 私には、隅から隅まで理解できない話だが、身の回りを見ていると、よく理解できるのは、大半の国民はどうでもいいと思っている、いや、それどころか、借金問題そのものがほとんど意識されていないだろう、ということだ。なるほど、日本は確かに民主主義国家なのである。