バクチ国家を目指す日本

 4月11日にJR西日本が単独での維持は困難だとする赤字線区の収支を発表したのに続き、鉄道各社が次々と運賃値上げの方針を打ち出している。更に、国土交通省は、今日の有識者会議に、鉄道運賃の値上げに関してハードルを下げる方向の改革案を示したらしい。もう少し具体的に言えば、鉄道会社と沿線自治体の合意があれば、国の認可を不要とする、ということである。
 本当に困った話だ。鉄道は「公共」交通である。単に赤字か黒字か、もうかるかどうかではなく、人の移動のための手段を将来へ向けてどう整備していくのか、車、バス、鉄道、飛行機、船はそれぞれどのような移動に向いており、国土の特性や環境負荷との関係で、それらの比率をどうしていくのか、というような社会設計に基づいて政策が作られるべきである。JR西日本の収支発表は、そのきっかけでこそあるべきだった。そんな議論が全然聞こえて来ない中で、後から後から道路を立派にし、多少価格が上昇しつつあったガソリンには補助金を出すという形で、今以上の車中心社会を目指した既成事実が積み重ねられてゆく。本当に貧しい政治だ。
 5月31日には、首相が「新しい資本主義」なるものの計画案を公表した。エコノミストが「アベノミクスに回帰してきた」と評価するようなもので、ひたすら「経済成長、経済成長、経済成長」である。私には、どうしても環境問題克服のための温室効果ガス削減目標とは真逆を向いたものに見える。
 昨日から今日にかけても、各地で雹や突風による被害が出た。何もかも温暖化のせいにする気はないけれど、気象の凶暴化の一部であるような気がする。今の調子でいけば、今後数十年の間に平均気温が4℃とか5℃とか上がると言われていて、それは正に生存の危機であるはずなのに、なぜか全く無頓着。一方で、数百年に一度というような地震とか津波による被害予想は、毎日のように大きなニュースとして扱われている。私にはまったく理解できない優先順位だ。
 更に、私が眉間にしわを寄せたのは、「資産所得倍増」計画なるものだ。例えば、今手元にある毎日新聞では、「国民が持つ金融資産を株などの投資に振り向け、それから得られる利益を増やす政策」であると解説されている。簡単に言えば、国がバクチを奨励しているのである。これがまともな政治家の考えることであろうか?結局、IR問題と根底にあるものが同じなのだな。
 国民が安易な不労所得追求に走るのをたしなめ、額に汗して労働報酬を得ることを促すことが、高い見識を持つ人間のすべきことである。資産など倍増させる必要はない。地に足の付いた、地道で堅実な生活をこそ実現させるべきなのだ。
 一事は万事。何もかもがおかしい。安倍・菅から岸田に政権が代わっても、しょせんは自民党。同じ穴の狢、というやつだ。そのことが、今回の「新しい資本主義」計画案で、見事なまでに明らかになった、ということである。野党のふがいなさに助けられて、参院選でも自民党は圧勝するに違いないが、明るい未来はまったく見えない。