性風俗業への補助金裁判

 先週の木曜日、新型コロナウイルス対策の持続化給付金などの支給対象から性風俗業者を除外した国の規定の憲法適合性が争われた裁判で、東京地裁が合憲判断を下した。「規定の目的には性風俗業者と他の事業者を区別する合理的根拠があり、法の下の平等を保障した憲法14条に違反しない」というのが、裁判官の言い分だったらしい。訴訟に対して国は、「性風俗業者は基本的に不健全。国庫からの支出で給付金を支給することは国民の理解を得られない」と主張し、裁判所も「国庫からの支出で性風俗業者の事業継続を下支えすることは、大多数の国民が共有する性的道義観念に照らして相当でない」と、概ね国の主張をなぞっている。さて、この問題をどう考えるべきだろうか?
 私は、原告支持だ。原告は、風俗営業法に基づき、警察に事業を届け出て、法人税も納めてきた。緊急事態宣言の発出に伴って、自治体からの要請があり、営業を自粛した上で、持続化給付金の申請をしたという。
 性風俗業が健全かどうか、「賤」の職業でないのかどうかは、とりあえずどうでもいいことにする(下の【補足】参照)。外形的には、極めて合法的に事業として認められていたこと間違いがない。だとすれば、その職業を他の飲食店などと区別すべき根拠はない。仮に不健全であり、「賤」なのだとしたら、事業として許可すべきでないのだ。事業として許可した以上は、性風俗業であろうが何であろうが、一つの職業として尊重すべきであり、社会的な利益(感染の抑止)のために営業の自粛を要請した以上は、その休業補填はするのが当然である。
 これだから「自粛」は怖い。「自粛」とは言っても、明らかに実質は「禁止」である。それでも、「自粛」すなわち「自ら粛(つつし)む」である以上、「勝手に休んだんでしょ」という論理が生じかねない。原告である風俗業者にしてみれば、それが正夢となったわけである。原告は即日控訴したそうであるが、当然である。こんなに主観的で独善的な裁判が行われるようでは困る。何かしらの形で、私も応援したいくらいだ。


【補足】
 かれこれ10年あまり前のことだろうか。大学生がアルバイトでAVに出演していたことが発覚したとしたら、大学はどのような対応を取るべきか(処分していいのか)という問題が、新聞で記事になったことがある。朝日新聞ではなかったかと思うが、本当に残念なことに、その記事は保存していない。生徒は面白がるし、論点明確で、小論文の練習問題にはうってつけだった。
 記事がどのような結論に至っていたかも記憶がないのだが、やはり問題となっていたのは「職業に貴賎があるか」だった。私は、どちらかというと「貴賤がある」という立場である。AV出演は「賤」に属する。
 論より証拠。おそらく、「職業に貴賎がない」と主張するAV俳優に、では、自分の職業を「AV俳優」であると誰に対してでも紹介できるかと問えば、たいていの人はためらう、もしくは口をつぐむのではないか。公にできない職業には問題がある。頭でいくら否定しても、心情的に否定できない社会通念、文化(羞恥の感覚)というのは存在するのである。
 また、「貴賤」とは必ずしも関係しないが、性風俗はぜいたく産業でもある。農家が米を作るのと違って、なくても済むものの代表格である。ぜいたく度はかなり高い。農水産業、エッセンシャルワークなどとは自ずから違うと思う。
 もっとも、好きだからやるのではなく、そのような産業によってのみ、生計を維持できる人がいるということを忘れるわけにはいかない。しかし、この点については、だからこの手の仕事を守り、維持するというのではなく、他の分野で生計の手段が得られるようにした方がいい。
 一方、性風俗業というアングラな職業の存在が、社会全体の多様性とゆとりとを生み出しているという面も否定できない。世の中が明確に「必要」な行儀のいいものだけで構成されていたら、おそらくつまらなく、しかも窮屈な社会になってしまう。その点では、私も存在に肯定的だ(・・・ほんの少し)。