ガッテン!8年8ヶ月の違和感

 安倍元首相の国葬に関して、その正当性に関し、自民党から必ず出てくるのは、まず第一に「憲政史上最長の8年8ヶ月も首相を務めた」という実績だ。
 私は、この話を初めて聞いた時から、この理由にひどく違和感を感じてきた。しかし、自分がなぜ違和感を感じるのかということを、上手く説明できずにいた。
 私個人にとっては、安倍氏が8年8ヶ月も首相の地位にあったことは、日本という国にとっての大きな、ほとんど致命的と言ってもよいほどのダメージだったと思っている。特に、先日書いたとおり(→例えばこちら)、彼の最大のマイナス実績は民主主義そのものに大きな傷を負わせたことである。彼の始めた「野党から求めがあっても国会を開かない」「解散権を恣意的に行使する」「質疑時間の配分見直し」などなどが、菅政権、岸田政権にも受け継がれてしまったことを見ると、なおのことその思いを強くする。更に言えば、最近、岸田首相が「丁寧に説明する」を大安売りしつつ、実際にはたいした説明をしないこと、また、当初目玉商品にしていた「聞く力」を封印した、もしくは耳を国民ではなく、自民党内部にのみ向けるようになったことも、安倍元首相のご指導の賜物のように思われてならない。
 一方で、いつも言うとおり、安倍晋三なる人物は、自分で勝手に首相を名乗っていたわけではない。国会で選ばれてなっていたのである。自民党内部の抗争や、選挙制度に関する問題などはあるにしても、現行制度の中で、国会議員によって首相に指名されたという事実は重い。一人の民主主義者として、そのことは尊重しなければならない。これは、いわば「頭で分かっていること」である。
 私の中では、あの忌まわしき8年8ヶ月に対する憤りと、民主主義を尊重することは安倍氏をも尊重することだという相反する価値観、考えが、葛藤を続けていた。
 2017年10月22日に行われた安倍政権最後の衆議院議員選挙について、少しデータを示しておこう。
 有権者数 1億609万1229人 投票率53,68%
 自民党 小選挙区 2650万722票
            比例区  1855万5717票
 公明党 小選挙区   83万2453票
            比例区   697万7712票
 与党合計  小選挙区 2733万3175票
                 比例区 2553万3429票
 人は自分の票を有効利用したいので、当選できそうな人に入れるという傾向があるらしい。したがって、政党に対する支持者の動向は、比例区の票を見た方がよく分かる。実態をよりよく表している、と言ってもよいだろう。
 与党の比例区の得票率は、投票数に対しては44.83%で、有権者数に対しては24,07%となる。圧勝と言われたこの選挙でさえ、与党は、有権者の4人に1人からしか票を入れてもらえていない。
 制度の善し悪し論はあるにしても、私は、選挙というのは票の絶対数ではなく、相対的な多い少ないで決まるのだから、まあ、90%の投票率でも、結果はさほど変わるまい、むしろ、意識の低い人がぞろぞろ選挙に行ったら、自民党の得票数はもっと増えるに違いないと、この結果は静かに受け入れていた。
 ところが、国葬論の中で、「憲政史上最長の云々」を聞きながら、心の中でむくむくと頭をもたげてきたのが、何を偉そうに言っても、選挙で与党を支持していたのはたった4分の1で、それによって選ばれた議員が選んだ首相なんて、さほど価値なんかないのではないか、という論理であった。では、ここまで考えてすっきり納得できたかと言えば、決してそんなことはない。まだ割り切れないものが残っていた。
 そんな折、昨日JBpressというネットニュースで、青沼陽一郎氏が書いた「国民の分断を招く『国葬』なんてあり得ない、その陰に統一教会あり」という記事を読んで、実にすっきりと解決したのである。
 記事は「8年8カ月の長期にわたって政権の座にあったことは、むしろ野党にとっては汚点であって、喜んで受け入れられることではない」という野党議員の言葉を引き、この「8年8ヶ月」は「自民党にとってこそ都合のいい理屈だ」とコメントしている。
 確かに、首相を選んだのは与党議員なのだ。与党にとって都合のいい8年8ヶ月でしかなかったのだ。いかに国会で選ばれたとは言っても、彼が全国民のために仕事をしたならともかく、民主主義の破壊は、ひたすら与党にとって都合のいい国作りを進めたということなのだ。「8年8ヶ月」を根拠に国葬を催すことは、与党が、自分たちこそ日本だ、と言っているようなものなのだ。それが、与党のやり方をよく思わない人々を排除し、国を分断するということなのだ。
 自分の感じていた違和感の正体が明瞭になったことについてはすっきりしたが、国葬が不愉快であることについては何も変わらない。ふふ、こういうのは「解決」ではないな。